第2章 贖罪の二年間、もう清算済み

えっ?!

村上龍平は彼女を乱暴に掴み上げ、車の中に放り込んだ。

松本由美は恐怖で体を縮こませ、車の隅に寄り添った。「君...誰に嫁がせるつもり...いや、降ろして...」

彼女は一人の人間だ。生きている人間であって、物のように扱われる存在ではない。

「俺の好きなように誰にでもやれる」村上龍平は彼女の顎を掴んだ。「選択権なんてお前にはない」

松本由美は泣きたかったが、彼の機嫌を損ねることを恐れ、涙を必死に堪えた。

涙を湛えた澄んだ瞳を見つめていると、村上龍平は一瞬だけ心が揺らいだ。

いや、敵の娘に同情するなんてありえない。そんなばかな!

村上龍平は冷たい表情を取り戻し、イライラとネクタイを引っ張った。

突然、袖口に白い手が伸びてきた。

「お願い、やめて...」松本由美の涙が彼の手の甲に落ちた。「どんな方法でもいい、でもこんな形で私を壊さないで...」

これが彼女が初めて村上龍平に懇願した言葉だった。効果があるかどうかも分からずに。

その声は、昨夜の女を思い出させた。

まるで似ているじゃないか!

しかし...松本由美のはずがない。

彼女は精神科病院に閉じ込められていて、逃げ出すことなど不可能なはずだ。

村上龍平は手の甲の涙を優しく拭った。「付き合って二年、やっと降参の言葉を聞けたな」

そして残酷な笑みを浮かべた。「だが、無駄だ」

手が彼の袖から滑り落ちた。

携帯が鳴り、村上龍平は画面を一瞥した。継母の斎藤智子からだ。

「龍平や」斎藤智子は心配そうな声で尋ねた。「今聞いたんだけど、昨夜ホテルである女性と...」

言い終わる前に、村上龍平は遮った。「ああ。今、市役所に向かっている」

「え?あ?結婚するつもり?」

「そうだ」

村上龍平は先手を打つのが得意だった。

斎藤智子が女を送り込むのは、自分を監視するためだ。そんな策略は決して成功させない。

昨夜の女を探し続けるつもりだが、斎藤智子には絶対に知られてはならない。

真っ暗で顔が見えなかったのだから。

でなければ、斎藤智子が適当な女を連れてきて偽装しても、見分けがつかない。

今のところ最善の策は、松本由美に一時的に代役を務めさせることだ!

どうせ、彼女は一生、俺の元で罪を償わねばならないのだから。

電話を切ると、村上龍平は眉を上げた。「松本由美、よく聞け。お前が嫁ぐ相手は...俺だ」

嫁がせる?

松本由美は自分の耳を疑った。

でも彼の表情は冗談を言っているようには見えない!

市役所。

松本由美はペンを握ったまま、なかなかサインができなかった。

奥さんになるなんて考えたこともなかった。あの立場は、自分には相応しくない。

精神科病院に留まっていた方が、村上龍平の傍で四六時中を過ごすよりましだ。

係員が不審そうに尋ねた。「松本さん、本当に自分の意思なんですか?」

「私は...」

「もちろんです」村上龍平は後ろから彼女を抱き寄せ、手を握って一文字一文字サインを書かせた。「私の奥さんは感動しすぎているだけです」

広い胸が背中に触れ、優しげな仕草は強制的なものだった!

「松本由美、結婚が成立しなければ、お前を裏山の狼の餌にしてやる!」村上龍平は彼女の耳元で低く警告した。恐ろしい脅しだった。

松本由美は人形のように、彼の思うままに動かされた。

結婚証明書が発行されると、村上龍平はすぐにそれを取り上げた。「勘違いするな、松本由美。お前は何者でもない」

彼女は唇を噛んだ。「私との結婚も、新たな拷問の始まりということですか?」

「そう受け取ってもいい」村上龍平は外へ向かって歩き出した。「帝苑テラスに戻る」

帝苑テラスは村上龍平の私邸で、高級住宅街に位置し、山水に恵まれた豪華な建物だった。

まるで華やかな檻のようだ。

松本由美はリビングの中央に立ち、色褪せた服とズック靴姿で、まるで城に迷い込んだみすぼらしい醜いアヒルの子のようだった。

使用人たちは小声で噂し合っていた。「この人誰?私たちより貧相な格好してるわ」

「しっ、村上さんが直々に連れてきた人よ」

執事が叱りつけた。「舌を切られたいのか?こちらは奥様だ、帝苑テラスの奥様だぞ!」

なんと、奥様があんなに平凡な人とは!

村上龍平が近づき、冷ややかに命じた。「きれいに洗って、私の部屋に連れてこい」

松本由美は驚愕した。彼は...

いけない、体の青あざを見られてしまう!

たとえ夫婦の契りを結ばなくても、村上龍平と同じ部屋にいるだけで息が詰まりそうだった!

彼女は首を縮めた。「どこで寝てもいいです。地下の物置でも...床に布団を敷いても...」

「言われた通りにしろ!」

村上龍平は手を振って使用人たちに彼女を連れて行かせ、二階へ向かった。

松本由美は緊張で手に汗を握り、これから待ち受けているものを想像するのも恐ろしかった。

もうこれ以上従順に従うわけにはいかない...

逃げろ!

三十六計、逃げるのが上策だ!

浴槽にお湯が満たされ、使用人が彼女の服を脱がせようとした。

「自分でやります」彼女は言った。「ドアの外で待っていてください」

「でも村上さんが...」

「言いつけませんから」

全員を追い払うと、松本由美は小さな窓を見上げた。

書斎。

村上龍平はパソコンの前に座り、画面上のウィリアム医師を見つめていた。「検査結果は出たか?」

ウィリアムは咳払いをした。「出ましたが...」

「率直に言え」

「...弱精症です」ウィリアムは答えた。「三度確認しましたが、間違いありません」

机を軽く叩いていた村上龍平の指が、突然止まった。

二日前に健康診断の結果を受け取った時、こんな病気になるはずがないと信じられず、すぐに海外の一流泌尿器科医に連絡したのに、結果は同じだったのか。

ウィリアムは続けた。「しかし村上さん、検査で異常が見つかりました」

「ほう?」

「確実に言えるのは、長期的に何らかの食べ物か薬品を摂取されていたために、この症状が出たということです」

これを聞いて、村上龍平はかえって安堵した。

彼は冷ややかに笑みを浮かべた。「治療は可能か?」

「もちろんです。お薬を処方しますので、三ヶ月を一クールとして治療を。ただし最善の方法は、原因を突き止めて根本的な治療を行うことです」

「ああ」

村上龍平は窓の外を見つめ、心の中ではすでにはっきりしていた。

父が亡くなってから、斎藤智子は世話を焼くという名目で、毎日帝苑テラスに様々な薬膳スープを届けていた。

飲まないでいると、斎藤智子は執拗に、村上さんが生前大好きだったとか言い続けた。

村上龍平は彼女のしつこさに辟易して、毎日少しずつ口をつけていた。

まさか...斎藤智子がこれほど悪辣な考えを持っていたとは。

この方法で、どんなに女性がいても子供ができないようにして、村上家の血筋を絶やそうとしていたのか!

ドンドンドンー

その時、外から慌ただしい足音が聞こえ、執事が激しくドアを叩いた。「村上さん!大変です!」

村上龍平は鋭い表情を見せた。「何を慌てている?話せ!」

「奥様が...奥様が消えました!」

浴室は整然としており、浴槽の水は全く使われた形跡がなく、換気用の窓が開けられているだけだった。ちょうど一人が通り抜けられるサイズの。

松本由美め、窓から逃げ出したのか!

何という度胸だ!

村上龍平は険しい表情を浮かべた。「使えない奴らめ、一人の女も監視できないとは!」

「村上さん、奥様の携帯が残されています...ボイスメッセージが一件」

村上龍平が再生すると、澄んだ女性の声が流れ出た。

「村上龍平、二年間の償いで、もう私たちは清算済みです。さようなら!」

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