第016章

水原レイは彼に一瞥もくれず、自分のペースで歩き続けた。

石川秀樹はたちまち機嫌を損ね、声がさらに冷たくなった。「水原レイ、車に乗れと言ってるんだ。耳が聞こえないのか?」

水原レイは依然として彼を無視し続けた。

そこで石川秀樹はアクセルを踏み込み、車は砂埃を巻き上げながら走り去った。

水原レイは彼の車が消えていく方向を食い入るように見つめ、頭の中では何年も前に封印された光景が思い起こされた。彼女は毎日家で待ち続け、いつか彼の愛を待ち受けられると信じていた。

しかし離婚するまで、彼が心変わりすることはなく、彼からの優しさのかけらさえ待つことはできなかった。

今では彼女はもう諦め、ただ...

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