第058章

水原玲理は彼に目もくれず、聞こえなかったふりをした。

石川秀樹は我慢しながら、低い声で彼女の名を呼んだ。「水原玲！」

水原玲はようやく石川秀樹の方を見た。筋肉質で引き締まった背中が真っ赤に腫れていた。どうやらおじいさんは容赦なく叩いたようだ。

水原玲は本当なら相手にしたくなかったが、言いかけた言葉を飲み込んだ。

まあいい、ただ薬を塗るだけだ。

彼女は彼の手から薬液を受け取り、綿棒に染み込ませて怪我の部分に塗り始めた。その動きは優しくはないが、手際がよかった。

石川秀樹は彼女のいらだちを感じ取れた。まるでこの艶めかしい雰囲気をできるだけ早く終わらせたいかのようだった。

彼の唇の端...