第64章

疾風は雄馬で、林田ククにこれほど懐くのは、彼女の美貌に惹かれているだけでなく、他にも理由があるのだろうか?

藤原深は口元の笑みを消しながら、一言だけ言った。

「色に溺れて義を忘れる」

林田ククは彼の言葉をはっきり聞き取れず、疾風を撫でながら言った。

「なんか疾風、太ったんじゃない?」

疾風は人の気持ちがよく分かるらしく、「太った」という言葉を聞いた途端、頭を上げて一声鳴いて、不満を表した。

林田ククは疾風が機嫌を損ねたことに気づき、すぐに毛並みを撫でながら宥めた。

「ごめんね、うちの疾風は太ってなんかいないわ。私が言い間違えただけよ」

疾風は機嫌を直すのも早く、すぐに林田クク...

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