第50章 あの貧乏人

佐藤愛は、こう言えば北村辰は必ず彼女に口座番号を教えてくれると思っていた。

ところが北村辰は言った。「余分なお金だ。君への走り代として受け取ってくれ……返す必要はないよ」

「次に何か手伝ってほしいことがあったら、その時にまた頼むから」

北村辰の太っ腹な態度に、佐藤愛は言葉を失った。

「それはちょっと...」

佐藤愛が言い終わらないうちに、北村萧の方から助手の高橋安の声が聞こえてきた。忙しいようだった。北村辰は彼女にさよならを言うと、急いで電話を切った。

佐藤愛は携帯を手に、しばらくぼんやりとしていた。

昨夜、顔色の悪い北村辰が彼女を褒めていた光景が目の前によみがえり、それまで穏...

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