第14章 退いて進む
高橋茜から見れば、塚本郁也は古川有美子のことを好きじゃないはずだから、彼女に良い顔をするわけがないと思っていた。
しかし現実は認識を覆すものだった。塚本郁也は古川有美子と一緒に帰っただけでなく、あの女にティッシュまで渡していたのだ。
強い危機感が高橋茜を襲い、彼女の目には涙が光った。「郁也、あなたあの女のこと好きになったの?」
塚本郁也は顔を曇らせ、彼女の無理難題に応じる気はなかった。
「お前に関係ないことだ。俺に質問する権利はない」
冷たい言葉が高橋茜の心を深く刺した。彼女はすぐに不満を表した。「どうして権利がないの?私はあなたの彼女よ。浮気なんてダメよ」
「彼女」という言葉に、塚本郁也のこめかみの血管が脈打ち、めったに怒ることのない彼もこの時ばかりは言葉を失った。
以前は高橋家の面子と高橋家の人々の頼みがあったため、塚本郁也はあまり厳しい対応をしなかった。
しかし今となっては、高橋茜にはっきり言わなければならないようだ。
塚本郁也は冷たく彼女に告げた。「お前は俺の彼女じゃない。俺もお前の彼氏じゃない。きちんと治療を受けるべきだ。お前はもっと良い人に値する...」
高橋茜は受け入れられず、強引に彼の言葉を遮った。「違う、信じない。あなたは絶対に嘘をついてる」
「きっとおじいさまがあなたを脅したのね、私と一緒にいさせないように。あなたが私のことを好きじゃないわけないわ。前はあんなに優しくしてくれたし、新婚の夜だってわざわざ彼女を置いて私を探しに来てくれたじゃない」
「私が会社を困らせた時も、あなたが出資して立て直してくれた。どうして私のことを好きじゃないなんてことがあるの?」
高橋茜は非常に興奮して話し、話せば話すほど確信を深めていった。塚本郁也ほど自分に優しい人は今まで誰もいなかった。彼が自分を好きじゃないなんてあり得ない。
しかし、男の次の言葉は、彼女の夢を無情にも打ち砕くハンマーのようだった。
「高橋家への出資はおじいさんの意向だ。彼とお前の家のおじいさんの長年の友情のためだった」
「お前が言う『優しくした』ことも、ただお前の両親に頼まれて、お前が治療に協力するよう手伝っただけだ」
「お前は俺にとって妹のような存在だ。男女の情なんて一切ない」
「嘘よ、信じない!」
高橋茜は悲鳴を上げ、耳を塞いで塚本郁也の言葉をこれ以上聞きたくなかった。
「嘘よ、全部嘘。あなたは私を騙してる」
「きっとおじいさまが脅したのね、それとも古川有美子?彼らがあなたと私を一緒にさせないようにして、あなたにこんな嘘をつかせたのね?」
「郁也、やめて、私を置いていかないで。あなたがそばにいてくれるなら、私はちゃんと治療を受けるわ。良くなったら、子供だって産んであげる。そうしたら、私たちは...」
高橋茜の言葉がどんどん的外れになっていくのを見て、塚本郁也は冷静に彼女を遮らざるを得なかった。彼女がこれ以上夢を見続けるのを防ぐために。
「もういい。誰も俺を脅していない。ただ俺がお前のことを好きじゃないだけだ。もうこんな狂った行動はやめろ。さもないと...」
塚本郁也は一瞬言葉を切り、すぐに目から冷たい光が放たれ、それを見た人は全身の血が凍るようだった。
高橋茜は思わず震え、そして塚本郁也の次の言葉を聞いた。「お前を一生療養院から出られないようにすることもできる」
高橋茜は驚きのあまり言葉を失った。塚本郁也の言葉は鋭い刃物のようで、彼女の心臓から一部を容赦なく切り取ったようだった。
彼女の涙は止まらなかった。塚本郁也は今まで彼女にこんな厳しい言葉を言ったことはなく、療養院に送るという脅しまでかけた。
あれは高橋茜が最も嫌う場所で、悪夢のような存在だった。塚本郁也がこんな風に彼女を扱うなんて、それは古川有美子のせいなのか?
彼は以前はこんな人ではなかったのに。
高橋茜の心は血を流し、つらさと恨みで満ちていたが、彼女はそれをうまく隠した。
塚本郁也の冷たい視線の中で、彼女はゆっくりと頷いた。「わかったわ、ごめんなさい。もう二度とあなたを怒らせないわ、許してくれる?」
高橋茜の哀れな様子を見て、塚本郁也は結局、病人を厳しく責めることができず、彼女とのやり取りを続けなかった。
高橋茜は恐る恐る尋ねた。「郁也、あなたを送っていってもいい?」
塚本郁也は眉をひそめた。
高橋茜の声はさらに哀れに聞こえた。「ただ送っていくだけよ、それだけの小さなことも許してくれないの?」
「私のことを好きになってくれなくていいけど、友達にもなれないの?」
彼女が何度も哀れを装って懇願するので、塚本郁也も早く高橋茜から解放されたいと思い、結局同意した。
「送ったらすぐ帰るんだな?」
「うん、送ったらすぐ帰るわ」高橋茜は声を弾ませ、急いで彼のためにドアを開けた。このまたとない機会を逃したくなかった。
二人はすぐに車に乗り込み、塚本家へ向かった。
二十分後、彼らは目的地に到着したが、誰も予想していなかったことに、外から帰ってきた渡辺愛華と塚本郁夫にちょうど出くわした。
渡辺愛華は高橋茜を見るなり、非常に親しげな態度を示した。
「あら、どうして二人一緒に帰ってきたの?古川有美子は?」
「今日はあなたたちの里帰りの日じゃなかったの?出かける時は二人だったのに」
からかうような視線が塚本郁也に向けられ、渡辺愛華の声には隠しきれない冗談めいた調子があった。
「こんなことしてたらおじいさまが知ったら怒るわよ」
塚本郁也の顔が曇った。
古川有美子が途中で彼を置いて彼の車で逃げ出さなければ、高橋茜と一緒に帰ることもなかっただろう。
古川有美子のやつ、今どこにいるのかさえ分からない。
あの機転の利く顔を思い出すと、塚本郁也の心には怒りが増した。
この時、高橋茜が彼の代わりに弁解した。
「愛華姉、誤解よ。古川有美子が郁也を道に置いていってしまって、たまたま私が見つけたから、一緒に送ってあげただけ」
「もう送り届けたから、私はこれで帰るわ。また今度遊びに来るね」
彼女は礼儀正しく微笑んだが、その目は塚本郁也から離れず、それから渡辺愛華を見た。
渡辺愛華はすぐに彼女の心の内を理解した。
「あら、帰らないで。せっかく来たんだから、ちょうどあなたに話したいこともあるし、中に入りましょう」
渡辺愛華は夫・塚本郁夫の不賛成の表情を無視して、高橋茜の手を引いて中に入った。
高橋茜は心の中で喜びに満ち溢れていたが、目は困ったように塚本郁也を見て、困っているふりをした。
「義姉さんに招待されたんだ、俺には関係ない」
この言葉は彼女の入室を黙認したも同然だった。
高橋茜は感謝の眼差しで塚本郁也を見たが、塚本郁也は彼女を空気のように扱い、振り返りもせずに家に入った。
塚本郁夫は胸の内に怒りを抱え、彼も中に入った。すれ違いざまに、冷たく渡辺愛華に言った。「父さんが帰ってきたら、お前がどう説明するか見ものだな」
渡辺愛華の顔はすぐに曇った。全身から不満が漂っていた。塚本郁也が彼女に冷淡なのはまだしも、塚本郁夫はどうしたというのか?
古川有美子が嫁いできてから、一日も良い顔を見せてくれない。渡辺愛華は考えれば考えるほど腹が立ち、高橋茜の手をますます強く握りしめ、痛みに後者は息を呑んだ。
「愛華姉」高橋茜は怒りを抑え、わざと弱々しく柔らかな声で言った。「塚本家は今私を歓迎していないみたい。私はもう帰るわ。あなたに迷惑をかけたくないから」
「愛華姉も大変でしょう?」
















































