第5章
葉山風子はうなずいた。
「千草グループの給料は市内で最高なのよ。お金を稼ぎたい人なら、誰でもそこに入りたいでしょう？」
「じゃあ、千草グループの社長についてはどう思う？」桂原明はさりげなく尋ねた。
葉山風子は首を傾げて、ネットで見た舒式社長についての情報を思い出した。
「才能のある人だって聞いたわ。千草グループはあの人の下でどんどん拡大して、時価総額もどんどん上がってるって。ただ、その社長はとても謎めいた人で、一度も公の場に姿を現したことがないの。きっとすごくブサイクなんだと思うわ。もしかしたら、油ぎったハゲデブで、黄ばんだ歯と気持ち悪い顔をしているから、人前に出る勇気がないのかもね」
最初の部分を聞いた桂原明はまだ嬉しかったが、葉山風子の後半の言葉で彼の顔は一気に曇った。
「どうしたの？顔色悪いけど、具合でも悪いの？」
葉山風子は心配そうに尋ねた。
桂原明は深呼吸をして心の中の憂鬱を押し殺した。彼は頭を振って言った。
「何でもない。昨夜あまり眠れなかっただけだ。そうだ、その車は君が乗っていていいよ。会社から新しい車を用意してもらったから」
「あなたのお金持ちのお姉さん、本当に優しいのね」葉山風子は小声で呟いたが、桂原明には聞こえなかった。
翌日、葉山風子はハローキティの車で千草グループの駐車場にやってきた。彼女が車を停めると、すぐに見覚えのある姿が近づいてきた。
「藤原博、なんでここにいるの？」葉山風子は驚いて尋ねた。
葉山風子は藤原博の出現に驚いた様子だった。
「俺がここに来てるの見て、驚いた？嬉しい？」藤原博は両手を広げ、葉山風子を抱きしめようとするかのようだった。
葉山風子は履歴書を丸めて筒状にし、藤原博の頭を強く叩いた。
「驚いたけど嬉しくないわ。警告しておくけど、邪魔しないでよ。今日は私の面接の日なんだから」
藤原博は悲しそうに葉山風子を見つめた。
「風子さん、俺はあなたの目には邪魔をするだけの人間なの？」
藤原博は葉山風子が真剣にうなずくのを見て、さらに悲しくなった。
「わかったよ。実はあなたの親友が俺を寄こしたんだ。セクハラされないか心配して、騎士として送り込まれたってわけ」
藤原博は肩をすくめ、ようやく彼がここに来た目的を明かした。
「真昼間でこんなに人がいるのに、どうやってセクハラするのよ？萌萌は考えすぎよ」葉山風子は呆れて額に手をやった。
「本当にあなたの助けはいらないわ。じゃあね」葉山風子は首を振り、千草グループの玄関へと歩き出した。
「ダメだよ、風子さん、待ってよ！」
藤原博はガムのようにしつこく追いかけてきた。
その時、社長オフィスでは。桂原明は手に持った数枚の履歴書を見て眉をひそめていた。
「今日の面接は俺の妻のためのセレモニーじゃないのか？なぜ他の人も面接に呼んだんだ？」桂原明は相澤俊に問いただした。
相澤俊は苦笑いして言った。
「ボス、奥さんに便宜を図りたいけど、それを気づかれたくないなら、当然他の人も面接に呼ばないといけないでしょう。彼女だけを面接して即採用したら、怪しまれますよ」
桂原明の眉間のしわが伸びた。相澤俊は流石に彼の良き部下で、確かに良いアイデアを出してくれた。
「君たち夫婦のために、私がどれだけ尽力したことか...彼女を採用したいなら、そう言えばいいのに。こんな芝居をする必要があるのか。情けない俺は、なぜか君の頼みを聞いてしまう」
相澤俊は心の中で桂原明夫婦をぼろくそに言い、自分自身も同様に批判した。
突然、相澤俊は桂原明が黙っていることに気づいた。顔を上げると、このボスが窓の外を見つめ、その顔色が真冬の霜のように冷たくなっているのが見えた。
「葉山風子の隣にいる男は誰だ？彼の身元を調べろ！」桂原明は冷たい表情で命令した。
「はいはい、また仕事が増えた」相澤俊は心の中で溜息をついて頷き、オフィスを後にした。
藤原博の身元は実際、かなり簡単に調べられることが分かった。これは相澤俊でさえ予想していなかったことだ。主にこの男がこの都市の金持ちの若者たちの間であまりにも有名だったからだ。もちろん、良い評判ではなかった。
藤原博の家族は立ち退き補償で財を成した。この若者の一家の幸運さには感心せざるを得なかった。立ち退きだけで数億円を手に入れたのだ。彼らの家族はサークル内で成金と揶揄されていた。
桂原明の部下兼アシスタントとして、相澤俊は当然、ボスの機嫌をとる方法を知っていた。
藤原博がガムのように葉山風子にくっついて離れないのを見て、相澤俊は警備員に目配せした。入り口の警備員はすぐに前に出て、藤原博を外に止めた。
「申し訳ありませんが、会社の社員または面接者以外は、会社内に入ることはできません」警備員は丁寧に藤原博を入り口で止め、彼が何を言っても中に入れなかった。
「俺を止めるのか？俺が誰だか知ってるのか？」藤原博は警備員に怒鳴ったが、警備員は全く相手にしなかった。
