第28章 風邪を引いたの?

「そうです」佐藤絵里は諦めた様子で頷いた。「彼を探していたんですが、オフィスにいますか?」

「坂田社長は市場部を視察しに行っています。あと10分ほどで戻られると思います」西村海が言った。「どうぞお入りください。何かお飲みになりますか、奥さん」

「お湯を一杯いただけますか」

「かしこまりました」西村海は応じながら、社長室のドアを開けた。「少々お待ちください」

オフィスはシンプルで格調高いグレートーンで統一されていた。落ち着いた雰囲気は、坂田和也本人の醸し出すオーラそのものだった。

大きな床から天井までの窓がドアの正面にあり、ほぼ街全体を見渡すことができた。陽光が差し込み、柔らかなウー...

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