第4章
結婚式が終わった後、佐藤悟は松本絵里と一緒におばあちゃんを病院に送り届けることになった。
松本絵里はおばあちゃんと一緒に座りたかったが、おばあちゃんは新婚の二人にもっとスペースを与えたいと言って、彼女に佐藤悟と一緒に座るように勧めた。
佐藤悟は彼女に言った。
「病院に着いたら、彼女ともっと一緒にいられるから」
松本絵里はようやく佐藤悟と一緒に車に乗った。
おばあちゃんは微笑みながら二人が一緒に座るのを見守り、車椅子ごと車に乗せられた。
松本絵里と佐藤悟はすでに最も親密な関係を持っていたが、今、彼の隣に座ると手のひらが緊張で汗ばんでいた。
佐藤悟は松本絵里の緊張を感じ取り、沈黙を破って話しかけた。
「絵里、今日の結婚式、満足だった?」
松本絵里は感謝の気持ちでうなずいた。新郎との感情の基盤はなかったが、彼女の理想に近い完璧な結婚式だった。特におばあちゃんが結婚式に出席できたことは、彼女の最大の願いを叶えた。
おばあちゃんのことを考えていると、松本絵里は突然ある問題に気づいた。
「どうしておばあちゃんのことを知っているの?」
「君のことはちゃんと調べたんだ。君が結婚したいのはおばあちゃんのためだって知っている。君が佐藤グループの支社で働いている優秀なデザイナーだってことも。その他にも、君の年齢、誕生日、血液型、身長、体重、会社の記録にあることは全部知っているよ」と佐藤悟はゆっくりと話した。
松本絵里は少し怖くなり、驚いて叫んだ。「あなたは一体何者なの?」
佐藤悟は彼女が怖がっているのを見て、急いで言った。「怖がらないで、会社で君を見かけたことがあるんだ」
松本絵里は半信半疑だった。彼らの会社は佐藤グループの傘下で、彼も佐藤姓を持っているので、社長の家族かもしれないと思った。
相手が自分のことをよく知っているのに、自分は彼のことを何も知らない。松本絵里は完全に会話を続ける気を失い、内心の疑問はますます大きくなった。
彼女は車窓に顔を寄せ、高層ビルから山々に囲まれた緑豊かな景色に変わるのを見ていた。
これは病院に行く道ではない!
「どこに連れて行くの?」松本絵里は緊張して佐藤悟に尋ねた。
佐藤悟は書類を見ていたので、金縁の眼鏡をかけていた。
松本絵里は彼が映画の中の冷酷な殺人狂に見えてきた。
彼女は大きな目で警戒しながら彼を見つめた。
佐藤悟は彼女に笑いかけ、眼鏡を外して説明した。
「おばあちゃんのために病院を変えたんだ。ここは環境が良くて、おばあちゃんの病状に良い影響を与える」
佐藤悟の言葉が終わると同時に、車は止まり、車窓の外には「青鹿山高級療養基地」と書かれた大きな看板が見えた。
松本絵里は恥ずかしくなった。
ここは病院よりもはるかに良い条件で、各患者には専属の医療チームがあり、日常の検査や監視も自宅で行われ、専任の医師チームが医療計画を立て、栄養士が一日三食を計画してくれる。
おばあちゃんは療養基地の静かな場所に住んでおり、静かな環境を好むおばあちゃんにはぴったりだった。
佐藤悟にも自分なりの考えがあり、このことが他人に知られないようにしたかった。悪意のある人々に利用されるのを避けるためだ。
おばあちゃんを落ち着かせた後、彼らは庭に座った。
「佐藤さん、お願いがあるんですが」と松本絵里は足先で地面の模様を描きながら勇気を出して尋ねた。
「いいよ!」佐藤悟は即答した。彼女が「お願い」という言葉を使うのは、彼女にとって恥ずかしいことに違いない。
「おばあちゃんに安心してもらうために、私に対する約束を話してもらえませんか?でも心配しないでください、その約束は本気でなくでも…」
「問題ない」佐藤悟は彼女の自責の表情を見て、手を伸ばして彼女の頭を撫でた。
「私の約束は全てが本気だ」
松本絵里は驚きと困惑の表情で彼を見上げた。
佐藤悟は笑って、何も説明しなかった。どうせ説明しても彼女は信じないだろうから。
介護士がおばあちゃんを連れてきた。
佐藤悟は急いで介護士から車椅子を受け取り、おばあちゃんの世話をした。
おばあちゃんは疲れていたが、松本絵里と佐藤悟の手をそれぞれ握りしめて言った。
「本当に良かった。絵里が結婚するのを見届けられて、おばあちゃんはもう思い残すことはないよ」
佐藤悟はおばあちゃんのそばにしゃがみ、優しい口調で言った。
「おばあちゃん、約束します。絵里を全力で大切にし、命をかけて守ります」
佐藤悟はおばあちゃんの手を握りしめて約束し、おばあちゃんの顔には次第に笑顔が浮かんだ。
松本絵里と佐藤悟が帰る頃には、すっかり夜になっていた。
夕方のラッシュアワーで車の流れはスムーズではなく、車は揺れながら進んだ。松本絵里はその揺れの中で眠りに落ちた。
どれくらい眠ったのか分からない。松本絵里が目を覚ますと、見知らぬ寝室にいた。黒と白と灰色の配色で、落ち着いた雰囲気だった。
松本絵里は時計を見た。夜の11時10分だった。
佐藤悟の姿は見えず、彼女は慎重に声をかけた。
「佐藤さん?」
丸顔のメイドが入ってきて言った。
「奥さん、私は円子です。佐藤様があなたのお世話をするように言われました。キッチンにはご飯が用意されています。佐藤様が、あなたが目を覚ましたらまず食べるようにと」
松本絵里は他人に世話をされるのに慣れておらず、丁寧に彼女を送り出し、ベッドから立ち上がった。
その時、自分の服が柔らかい綿のパジャマに変わっていることに気づいた。
円子が出て行ってから間もなく、佐藤悟がドアから入ってきて、松本絵里の頭を撫でた。
「絵里、起きたのか。お腹は空いていないか?」
松本絵里は自然に身を引き、首を振って彼を見つめた。
「佐藤さん、もう遅いので、帰らなければ…寮に戻らなければ」家に帰るのは松本百合に会いたくないからだ。
「絵里、ここが君の家だよ。寮に戻る必要はない」
松本絵里は彼を理解できずに見つめた。
佐藤悟は、松本絵里がまだ結婚のことを実感していないのかもしれないと思い、彼女に言った。
「絵里、私たちは結婚したんだ」
佐藤悟の言葉を聞いて、松本絵里は小さな声で言った。
「私たちは偽装結婚じゃないの?」
松本絵里は、佐藤悟が彼女と結婚したのは、一方では彼女を助けるためであり、もう一方では村山圭一と白石恵子に対する報復だと思っていた。
彼はおばあちゃんのために十分なことをしてくれたので、彼女はどうやって返せばいいのか分からなかった。
これ以上彼に迷惑をかけるわけにはいかないと思った。
「偽装結婚?」佐藤悟は疑問に思い、立ち上がって松本絵里を見下ろして言った。
「結婚証明書が偽物なのか、市役所が偽物なのか?」
松本絵里は彼の威圧感に圧倒されて説明した。
「私は、私たちの結婚は…愛情ではないと言いたかったんです」
松本絵里は村山圭一と白石恵子の親密な場面を思い出し、勇気を出して続けた。
「安心してください。もしあなたが私たちの結婚関係を必要としなくなったら、すぐに協力します」
佐藤悟の顔色は一瞬で暗くなった。
「昨夜のことを経て、君は私の気持ちを理解したと思っていた。絵里、私たちは結婚したんだ。合法的な夫婦だ。結婚の過程は普通の夫婦とは少し違うかもしれないが、私は君と普通の夫婦のように一緒に過ごしたい。一日三食、子供を育てる。だから、別居するつもりはない」
「寝るぞ!」佐藤悟は怒りを込めてベッドに横たわり、電気を消した。
ブンという音と共に、昨夜の記憶が松本絵里の頭の中で炸裂し、恥ずかしい場面が次々と浮かんできた。彼女はベッドの端に沿って緊張しながら横たわり、心の中は混乱していた。佐藤悟は一体何を考えているのだろう?























