第4章 どうして来たの

葉田知世は藤原羽里が本当に彼女を探しに来るとは思っていなかった。彼女が公衆の面前で彼を誘ったのも、ただ自分の印象を彼の脳裏に焼き付けるためだけだった。

「どう、知世？」カジノを出るとき、彼女は携帯を見ると、ちょうど平原遥子からのメッセージが届いていた。

「まあまあかな。でも、あなたに借りたお金を全部使っちゃった」葉田知世は苦笑いしながら返信した。彼女は隣のホテルで一晩眠ってから帰るつもりだった。深夜に一人で歩くのは安全とは言えないからだ。

「大丈夫よ。藤原羽里があなたを困らせなかっただけでよかった」平原遥子は言った。彼女は葉田知世と幼い頃から育った友達で、彼女の壁にぶつからないと引き返さない性格をよく理解していた。ただ、自分を傷つけることを少しでも減らしてほしいと願っていた。

「安心して、遥さん。わたし、わかってるから」

葉田知世はホテルに戻るとすぐにお風呂に入った。夜、彼女はカードゲームで多くのエネルギーを使い果たし、うっかり浴槽の中で眠ってしまった。

藤原羽里が入ってきたとき、彼はそんな光景を目にした。

細くて白い肌の体が赤ん坊のように浴槽の中で丸まり、頭だけが縁に乗せられていた。湯はすでに冷たくなっていた。

藤原羽里は葉田知世の髪を掴んで水の中に押し込んだ。彼女が溺れて目を覚まし、水面から這い出して大きく息を吸うまで。

「なんでここに...」その言葉を口にした後、葉田知世は自分の舌を噛み切りたいほど後悔した。彼女自身が彼のベルトにルームキーを差し込んだのではなかったか？

彼女の顔が突然真っ赤になった。

自分は恥ずかしさを捨てたつもりだったのに、そうではなかったのだ。葉田知世は落胆して思った。

一方、藤原羽里は彼女の表情の変化を見ながら、嘲笑うような表情で彼女を見下ろしていた。

葉田知世は彼の視線に不安を感じ、立ち上がって脇に掛けられたバスタオルを取り、自分を包もうとした。しかし、藤原羽里は彼女の手を捕まえ、浴室の壁に押し付けた。

恥ずかしい姿勢だったが、葉田知世には抵抗する理由がなかった。

彼女が逃げようとすると、彼はさらに激しく求め、彼女の唇を噛んだ。

葉田知世は自分がどうやって眠りについたのか覚えていなかった。ただ、その後の何度も繰り返される懇願の中で声が枯れるまで泣いたことだけは覚えていた。それでも藤原羽里は彼女を許さなかった。

彼女は、彼のような男性は温もりを共有する女性に不自由しないと思っていた。しかし、彼の拙いながらも過剰に勇猛な行動から見ると、彼も彼女と同じ初心者だったのだ。

目が覚めると、8桁の小切手がベッドの脇に置かれ、付箋には藤原羽里の傲慢な筆跡が残されていた。

「二度と俺の前に姿を現すな。見かけたら、その度に抱く。藤原家に嫁ぐ夢も見るな。藤原家はクラブで酒を売るような女は要らない。藤原羽里」彼が自分の名前をはっきりと残したことは、葉田知世が暴露することを恐れていない態度の表れだった。

葉田知世はあっさりとそのメモを撮影し、平原遥子に送った。

「彼が、わたしが本当は彼の元婚約者だったと知ったら、どう思うかしら」

「知世、辛かったね」しばらくして、平原遥子からの返信が届いた。

彼女はさらにそのメモを葉田雲子にも送り、前回の情事の動画のスクリーンショットも添えた。

間もなく、鈴木燕から電話がかかってきた。電波越しにもヒステリックな声が伝わってきた。

「妹の婚約者まで寝るなんて、葉田知世、恥知らず！この淫売！」

「言っておくわよ、藤原家はあなたなんか入れないわ。T市を出て行くなら、この件は水に流すけど、そうでなきゃ、あなたを生かしておかないわよ！」

「聞いてる？葉田知世！忘れないで、葉田晨はまだ病院にいるのよ。大人しくしていた方がいいわよ！」

「聞いてるの…」

鈴木燕がまだヒステリックに叫んでいる間、葉田知世はただ冷たく言った：「話は終わった？用がなければ切るわ」

「知世、あなたの妹が藤原家に嫁げば、将来葉田家にもあなたにも良いことがあるのよ。妹のことを考えないなら、葉田家のことを考えなさい」鈴木燕は葉田知世が言うことを聞かないのを見て、慌てて口調を柔らかくした。

「間違ってなければ、藤原と葉田両家の婚約は藤原のお爺様と私の母が決めたもので、葉田雲子とは何の関係もないはずよ」葉田知世は鈴木燕と話すだけで吐き気を催していた。

「あなた自身があなたの父親と親子関係を絶ったのよ。恨むなら自分を恨みなさい」鈴木燕はもう自信なさげだった。