第54章

その理由はデザイン部が急な注文を受け、人手が足りなかったからだった。

林田浅子は自分に何ができるのかわからないまま、焦る気持ちで異動させられたが、行ってみても誰も相手にしてくれなかった。

彼女は一日の午前中ずっと席に座っていると、ようやく若い男性が近づいてきて、彼女が秘書部から異動してきたのかと尋ねた。

「はい、林田浅子と申します」

「人事部によると油絵専攻だそうですね。ちょうどいい、このクライアントがうるさくて。いくつかデザインしてもらえますか?これがクライアントの要望です」若い男性は林田浅子に要望が書かれた紙を渡した。

林田浅子は確かに油絵専攻だったが、商業デザインを学んだこと...

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