第10章

「そこまでしなくてもいいでしょ」

篠崎アエミはマスクをしたまま淡く微笑んだ。「何もわかってないわね。これは予防策よ。榎田神也のビジネスパートナーはたくさんいるんだから、万が一彼の耳に入ったらどうするの?」

その言葉に林田涼子は一瞬言葉に詰まり、その後アエミを上から下まで眺めた。

「あなたが楽しければいいわ」

二人はエレベーターに乗って最上階まで上がった。受付の女性は二人の姿を見て少し驚いた様子だった。

林田涼子は前に進み出て言った。「こんにちは、私たちは無憂スタジオから来ました。9時半に山本社長とお会いする約束をしています」

「山本社長は現在会議中ですので、応接室でお待ちいただけ...

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