第16章

「いえ、大丈夫です。自分でタクシーを呼びますから!」

私は冷淡に断り、彼に視線も向けずに出て行った。

しかし外に出てからも、すぐに運転手に小林家の旧宅へ連れていってもらうことはしなかった。

代わりに、運転手に少し回り道をさせ、藤原純を巧みに撒いた。

案の定、藤原純が私を尾行してくるとわかっていたので、わざとそうしたのだ。

運転手の腕は確かで、藤原純の車を気づかれないように振り切ることができた。

藤原純を撒いたことを確認してから、ようやく住所を告げ、運転手に古い家へ向かってもらった。

私の家は六本木にある。

A市で最高級の別荘だが、古くからのA市の住民ではない人には、あまり知ら...

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