第36章

安田時也は、さり気なく秋山棠花を別の場所に案内すると、給仕から赤ワインのグラスを受け取り、藤原光弘の前に立ちはだかった。

唇の端に冷笑を浮かべ、「藤原社長の手は随分と長いですね。でも、藤原社長はお忘れのようですが、私がどういう立場か。海外のビジネスに影響が出ようとも、私の背後には安田家がある。最悪、本家に戻って家業を手伝えばいいだけの話です」

「ただし、ウォール街を去る前に、私の弁護士団にこの離婚訴訟を必ず勝たせますよ」

「そうかな?」

藤原光弘は眉を上げ、意に介さない様子で「やってみればいい」と返した。

二人の間に漂う強大な気場は真っ向から対立していた。

傍らに座る秋山柔子は、...

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