第32章

水原優子は黒いベンツの後部座席に座り、窓の外を流れていく景色を見つめながら、まだ状況を飲み込めていなかった。

本来ならバスで帰るつもりだったのに、気がつけば警察の車に乗せられ、しかも病院へ連れて行かれるなんて。

「警官さん、ありがとうございます。携帯が充電できたら、必ず真っ先にお金をお返しします」

病院に着くと、水原優子は車から降りて中の人に礼を言った。

「課長、LINEまで交換したんですか?」安岡孝司は目を丸くして向山延司を見つめた。

彼らの上司と言えば、署内でも女性に近づかないことで有名なのに、いつからLINEで女性と連絡を取るようになったのだろう?

「理由は聞いただろう?」...

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