第35章

「お金を払わなくていいわ」水原優子はバッグから黒いカードを取り出した。

結婚したばかりの頃、佐藤久志が彼女にくれたものだ。限度額はなく、好きなだけ使っていいと言われていた。

だが彼女は一度も使ったことがなかった。これが初めて、そして最後の使用になるだろう。

「やはり私の予想は当たっていたようね」太田沙耶香は水原優子の表情の変化を見逃さなかった。

「私が買ったからって何?あの指輪たちはただの商品でしょう」水原優子は冷たい声で言った。

「確かに商品ね。でも、あれは久志が私のために特別にオーダーメイドしたものよ」太田沙耶香は笑いながら言った。

「嘘よ」水原優子は信じようとしなかった。

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