第38章

佐藤久志は息を潜めていた。何か言いたいのに、何を言えばいいのか分からなかった。

長い沈黙の後、首筋に感じる彼女の息遣いが規則正しくなったことで、ようやく水原優子が眠ってしまったことに気づいた。

水原優子は階下で佐藤久志を待っていた。すでに必要な書類をテーブルの上に並べ、二年間つけていた指輪も外してあった。

薬指は真っ赤に腫れていた。

サイズの小さすぎる指輪を、彼女は力の限り引っ張って外したのだ。

結局、この指輪は彼女のものではなかった。この結婚と同じように、太田沙耶香に返すべき時が来たのだ。

佐藤久志が階段を降りてきた瞬間、テーブルの上の書類が目に入った。

「来たの」水原優子は...

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