第71章

「もしもし、姉さん」

向かい側の少女は電話を受けると、片方の頭で携帯を挟みながら、リンゴの皮を剥いていた。

「美咲、私よ」

「帰国してからずっと連絡ないなんて、初めての電話じゃない。お父さんとお母さん、すごく心配してるのよ。いつ帰ってくるの?」少女の声は澄んで活き活きとしていた。

太田沙耶香は携帯をきつく握りしめ、複雑な思いに駆られた。

交通事故で両足を引きずるようになってから、太田家での彼女の立場は一気に落ちてしまった。

そして太田美咲、この平凡極まりなく、彼女に比べれば取り柄のない妹が、一躍太田家の宝物となり、溺愛されるようになった。

そのことを考えるだけで、太田沙耶香は歯...

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