第52章

「……」

野口雅子は煙草を吸っている男性に向き直った。

「だから……離婚に同意してくれるよね?」

堀川純平は無造作に椅子の背もたれに寄りかかったまま、答えず、煙草の灰を弾き、しばらくしてからようやく尋ねた。

「あの男のこと、好きなのか?」

以前、メールのやり取りで彼女が好きな人がいると言っていたのを覚えていた。きっとあのメッセージを送ってきた男だろう。

野口雅子は無意識に首を振ったが、すぐに頷いた。

「うん、大好き」

実際、その好意はとうに薄れていた。家族全員から疎まれる相手を好きになるほど、彼女は自虐的ではなかった。

今、堀川純平に「好き」と言うのは、...

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