第29章

江崎玲子は薬を飲む勇気がなかった。「大丈夫です、少し空気を吸えば良くなりますから。薬は必要ありません。わたし、酔い止め薬にアレルギーがあるので」

江崎玲子は自分でも自分を少し感心していた。嘘をつくことに関しては、本当に手慣れたものだった。

「じゃあ、中で座る場所を見つけて少し休んでいろ。私は外でタバコを吸ってくる」

そう言い残すと、古江直樹は喫煙エリアへ向かった。

江崎玲子はその場に立ち尽くし、古江直樹が喫煙エリアでタバコに火をつける姿を見た。その後ろ姿からは言葉にできない寂しさが滲み出ていた。

江崎玲子には分かった。彼は何か心配事を抱えているのだ。

古江直樹はずっと高い地位にい...

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