第32章

江崎玲子の声は激しい衝突音にかき消された。

最後の危機的瞬間、古江直樹はハンドルを思い切って切り、車の向きを変えた。車は大きな木に激突し、エアバッグが展開したが、運転席側のボディは大木によって大きく凹んでしまった。

一瞬の轟音の後、すべてが静寂に包まれた。

衝撃で江崎玲子は意識を失い、古江直樹の方はさらに深刻な状態だった。フロントガラスは粉々に砕け、ドアは大きく凹んでいた。

人は危険を避ける時、自分を安全な位置に置くものだが、古江直樹は緊急の場面で助手席側で木に衝突するという選択をしなかった。

彼は江崎玲子側の危険を減らし、自分を最も危険な状況に置いたのだ。

しばらくして、意識を...

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