章 517

二人は見つめ合ったまま、誰も言葉を発さなかった。

体が触れ合い、息遣いを感じ、感情が交錯する。この瞬間、天地の間にはただ二人だけが残されたかのようで、倫理も道徳も禁忌もすべて頭の片隅に追いやられていた。

彼らの目には互いの姿だけが映り、抱きしめているのも互いだけ、心の中もまた互いだけで満たされていた。

ゆっくりと、二人の唇がゆるやかな速度で近づき始めた。近づくほどに、趙天明の胸は高鳴りを覚えた。

唇と唇の距離がわずか一センチになったとき、二人は妙な息を合わせたように同時に動きを止め、互いの瞳を深く見つめ合った。誰も微動だにしなかった。

「ドクン、ドクン」

二つの心臓が激しく鼓動し、まるで太鼓を...

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