章 829

「それじゃ」と言って資料を抱えて駆け出していった。

趙天明は彼女のあどけない後ろ姿を見つめながら、唇の柔らかさを思い返し、ほんのりとした甘さを感じずにはいられなかった。

余老が調査のため連行されたが、彼が戻ってこようがこまいが、仕事は誰かがしなければならない。ただ、病院は一人一役で、空きのポストなど全くないのだ。

しかも姜暖たちはあのアパレルショップの件でまだ片付いておらず、いつ戻ってくるのかも分からない。

しばらく考えた後、趙天明はふと一人の人物を思い出した。秦茹だ。

秦茹は病院で四、五年働いているが、ずっと資料室で勤務している。資料の貸し出し頻度は低く、専任の管理者など全く必要な...

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