第16章 何?逃げた?!

小林穂乃香の言葉に、藤堂蓮は足を止めた。周囲の人々が息を呑む音が聞こえる。

今の小林穂乃香の立場を思い、藤堂蓮は拳を握りしめ、唇を動かしたが言葉は出てこなかった。

一息ついて、藤堂蓮は再び口を開いた。「母さん、こっちへ来て。話がある」

全員:!!!

母さん?!!!!

小林穂乃香も呆然としていた。

あの言葉を口にした後、息子のどこか避けるような表情を見て、小林穂乃香は蓮がまだ自分とどう向き合うべきか準備ができていないのだと悟った。自分が勝手に思い込んでいただけだったのだ。

何か別のことを言って場を和ませようとした矢先、不意に息子から「母さん」と呼ばれた。

彼女の目にはうっすらと涙...

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