第282章

藤堂家を離れた田中は、苦しみと喜びが入り混じった日々を送っていた。上の者と連絡が取れなくなったことには鬱々としていたが、五十嵐が毎日会いに来てくれることは嬉しかった。

田中は藤堂家で二つの顔を持っていただけでなく、対外的にもいくつもの仮面を被っていた。

五十嵐に明かしている表向きの身分は、温泉川家の手配で藤堂家に潜入したというもの。彼女の任務は、温泉川家のために情報を探ることだった。

藤堂邸で得られる情報は実に限られており、温泉川家は役立たずの田中を重要視していなかった。

とりあえず使い道のない駒として生かしておけば、後々役に立つかもしれない、という程度だ。

田中を温泉川家に推薦した...

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