第311章 お嬢様

「渉が言っていたよ。母さんは一度、別れようと考えたことがあるんだって」

 これは渉が親しげに話しかけてきた時の言葉だ。「あの時、君のお母さんが別れるのを思いとどまってくれて幸いだった。でなければ、君のような優秀な息子はこの世にいなかったわけだからね」

 渉の性格からしてこの言葉はかなり軽率で、失礼ですらある。親しくもない間柄で、面白い褒め言葉とは言えない。

 渉は年長者同士の親密さをアピールしたかったのか、それとも自分に伝言させたかったのか?

 渉の意図がどうであれ、それを伝えるのはむしろ好都合だった。

 話を聞いた父のこの冷たい表情は、先ほどの笑顔よりずっと見ていて気持ちがいい!

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