第4章 母は早くに亡くなった!

藤堂蓮は執事よりもずっと耳が良く、とっくに外の物音に気づいていた。もちろん、あの「蓮」という呼び声も聞き逃してはいない。

そのせいで、心の内の怒りはさらに燃え上がった。誰がこの女に、自分をそんな風に呼ぶことを許したというのだ!

興奮した小林穂乃香は部屋に駆け込んできたが、息子を力いっぱい抱きしめる間もなく、天を震わすような一喝に足を止められた。

「消えろ、この女! 俺に近づくな!」

一瞬にしてこんなに大きくなった息子を目の当たりにし、小林穂乃香も少々戸惑ってしまう。だが、視線が藤堂蓮の首元にある、自分が手作りしたネックレスに落ちると、心はまた落ち着きを取り戻した。

どれだけ大きくなっても、自分の宝物だ!

深呼吸を一つして、小林穂乃香は宥めるような口調で言った。

「蓮、これはとても信じられない話だと思うけど、でも……」

藤堂蓮は聞く耳を持たなかった。彼は小林穂乃香を完全に無視し、後から入ってきた父親に向かって駆け寄る。二十歳にもなれば、その背丈はすでに父親と同じくらいだ。

「どうしてこんなことを! 俺の母さんは、あんたが適当に見つけてきた女で代わりが務まるようなもんじゃない! こいつにその資格があるのか?! あんた、狂ったのか!」

憤る藤堂蓮は、皮肉っぽく笑う。

「そうだな、とっくに狂ってたか」

本来なら誰よりも親しいはずの父子が、今やまるで宿敵のようだ。藤堂蓮の目に宿る憎悪に、小林穂乃香は心を揺さぶられた。

藤堂彰の表情は泰然自若としている。彼はまず小林穂乃香のそばへ歩み寄ると、その手を取って自分の腕に絡ませた。

そして、藤堂蓮に静かに告げる。

「書斎で話そう」

結果から言えば、奇妙で突拍子もない話というのは、そう簡単には信じてもらえないものだった。

書斎の中、説明を聞き終えても藤堂蓮の怒りは収まらない。

「そいつを家に入れるために、そんな馬鹿げた理由まででっち上げるのか?」

藤堂蓮には、なぜ父親が自分を馬鹿にしているのか理解できなかった。

息子のその反応を見て、小林穂乃香の脳裏にふと一つの考えがよぎる。藤堂彰は、本当に自分のことを信じてくれているのだろうか?

「彼女はお前の母親だ」

藤堂彰は小林穂乃香の手を指を絡めて固く握り、きっぱりと言い切った。

「俺の母さんはとっくに死んだ!」

藤堂蓮は心の中では決して母親の死を認めていなかったが、父親のこの様子を見て、初めてそんな言葉を叫んだ。

目の前にいる、自分とさほど年の変わらない若い女を見て、藤堂蓮は首を振る。狂ってる、狂ってる、本気で狂ってる。

「蓮、私たちの小さな秘密、覚えてる? 一緒にネックレスを彫って、パパの誕生日プレゼントにしようって。ネックレスの裏に私たちの名前を彫ろうって言ったじゃない……」

藤堂蓮の表情に驚きと疑念が浮かぶ。それは確かに、彼と母との約束だった。だが……。

「当時、使用人も聞いていた。調べればわかることだ」

藤堂蓮はこんな馬鹿げた話を全く信じず、これ以上この件でごねるつもりもないようだった。彼は藤堂彰に向き直り、一言一句、力を込めて言った。

「あんたが誰と一緒になろうが俺は構わない。だけど、俺の母さんを巻き込むな。この屋敷は母さんのものだ。あんたはこの女と外で暮らせ。二度と母さんに関するものには触るな!」

母のことを口にした途端、藤堂蓮の表情に一瞬の脆さがよぎったが、すぐに険しい表情に取って代わられる。追い詰められれば、自分は何をしでかすかわからないぞ、と!

まだ幼さの残る顔立ちが脅威を放ち、その声色は追い詰められた狼の子のようだ。

そんな藤堂蓮を前にしても、藤堂彰の表情には一片の変化もない。むしろ、小林穂乃香の方が涙目になっていた。

藤堂蓮は眉をひそめる。大した役者だ!

「この数年、一体どうやって子供を育ててきたの! この子がこんなことを言うなんて、父親であるあなたが十分な安心感を与えてこなかった証拠よ。私の蓮は一番いい子なんだから。蜜の壺の中で育つべきだったのに、こんなに辛い思いをさせるなんて!」

小林穂乃香は悲しかった。息子はこの数年、きっと心の中でとても苦しんできたに違いない!

藤堂・哀れな・蓮は呆然とした。

なぜなら、小林穂乃香がしくしくと泣きながら、父親の耳を容赦ない力でねじり上げ、叱りつけているのを見たからだ。耳が変形するほどの力で!

誰も、彼の父親にそんなことをする人間はいない!

肝心なのは父親の態度だ。彼は相手に「いじめられる」がままで、怒るどころか、その手を払いのける素振りすらせず、逆に怒らないでと小声で宥めている。

「怒らないでって、死ぬほど怒ってるわよ。後で夕食は抜き。子供たちの様子、ちゃんと説明してもらうから!」

小林穂乃香は、もっと早く聞くべきだった、このろくでなしに同情するんじゃなかった、と後悔した。

藤堂彰に対しては秋風が落ち葉を掃くように「残忍」な小林穂乃香も、藤堂蓮に向き直ると、春風のように穏やかな慈母の顔になる。

「蓮、こういうことが受け入れがたいのはわかるわ。でも、これが事実なの。本当にママなのよ。この数年、ママがそばにいなくて、きっとたくさん辛い思いをしたわね。宝宝、ごめんなさい」

藤堂蓮は心の中で、目の前の女は狂人のふりをしているのだと自分に言い聞かせた。外の女たちは藤堂家に成り上がるためなら、どんな狂った手段でも使ってくる。

だが、その包み込むような優しい眼差しと目が合い、再び「宝宝」という呼び名を聞いたとき、鼻の奥がツンとして、不意に込み上げてきたやるせない感情に、思わず一歩後ずさっていた。

小林穂乃香は悲しそうに鼻をすすり、自分の髪を数本引き抜いてテーブルの上に置いた。

「宝宝、用心深くなるのはいいことよ。これは私の髪。あなたが信頼できる機関に持って行って、DNA鑑定をしてもらいなさい。データは嘘をつかないから」

「その間に、よく考えてみて。私たち母と子だけが知っていることは何だったか。鑑定結果を見たら、また私に確かめに来てくれる? ママ、ずっと家にいるから……」

小林穂乃香は言い聞かせるように優しく宥める。大きくなった息子も、小さなお団子だった頃と変わりない。眼差しや仕草に、まだ子供の頃の面影が見える。

藤堂蓮の小指がわずかに曲がる微細な動きを見て、小林穂乃香は、息子の心に言葉が届いたことを知った。

藤堂蓮はその言葉を受け入れようと試みたが、あまりにも現実離れしすぎている!

彼はさらに二歩後ずさり、やがて何かを決心したように、大股で歩み寄ると髪の毛を掴み取り、そして一言も発さずに立ち去った。

息子が去った後、小林穂乃香は藤堂彰の「尋問」を開始した。

他の人や事柄はどうでもいい。ただ三人の子供たちの成長の軌跡をはっきりとさせたかった。

飛行機事故の後、ブラックボックスが発見された付近で、次々と亡くなった乗客の遺体が見つかった。今現在も、機上の数十人が行方不明のままで、生きて発見された者もいなければ、遺体も見つかっていない。

小林穂乃香もその一人だった。

藤堂彰はずっと、小林穂乃香はまだ生きているという希望を抱き続けていた。自らチームを率いて船を出し、捜索を続けた。その捜索は、途切れることなく一年間続いた。

最初の頃、藤堂蓮は藤堂彰に連れられていたが、幼い藤堂蓮は船上の生活に到底適応できず、屋敷に送り返され、ベビーシッターに預けられることになった。

男女の双子は幼稚園に預けられ、専門のスタッフが常時世話をしていた。

藤堂彰の生活は、ここから仕事と小林穂乃香の捜索という二つに分かたれた。

人間の精力には限りがあり、子供たちは顧みられなくなった。次第に、父子の関係はますます疎遠になっていった……。

「藤堂蓮は小さい頃からずっと寄宿学校で、藤堂朔と藤堂望も平日は寮生活だ。彼らの日常生活のために、十人のプライベート執事を雇っている……」

「穂乃香、私が間違っていた。彼らのことをちゃんと見てやれなかった。怒らないでくれないか。これからは、家族みんなで幸せに暮らして、二度と離れないから」

藤堂彰は小林穂乃香の袖口を引っ張り、その瞳には恐る恐るといった様子が満ちていた。

「少し、一人にさせて」

小林穂乃香は、自分が失踪した後、藤堂彰がこれほどまでにひどい有様だったとは思ってもみなかった。

つまり、子供たちは母親を失った後、あらゆる意味で同時に父親をも失っていたのだ!

小林穂乃香は藤堂彰を書斎から追い出し、一人で床に座り込んで、棚にある子供たちのこの数年の写真や成績表、プライベート執事の記録などをめくった。

子供たちに関する一つ一つのことを、彼女は必死に取り戻そうとしていた。

書斎の扉の前では、蹴り出された藤堂彰が床に座り込んでいた。ここにいなければ、彼は安心できなかった。

その夜、藤堂家の屋敷の灯りは、一晩中こうこうと灯っていた。

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