第40章 奥様が動けば、すぐに分かる

人間、あまり調子に乗らない方がいい。さもないと、喜びの絶頂から悲しみのどん底へと突き落とされることになる。

藤堂朔が息子を連れて帰ってくると知ってからというもの、桜井の母は自分の家がついに成り上がれるのだと思い込んでいた。

常識的な人間であれば、物事が確定するまでは全てが不確定要素であり、結婚したとて離婚することもある、と考えるだろう。

だが、桜井の母はそうは考えなかった。彼女は藤堂朔がもう逃げられないと確信していたのだ。

金持ちの家は体面を重んじる。彼女は病院の至る所で言いふらしていた。藤堂朔の家が同意しなければ、娘さんの評判は地に落ちるのだ、と。

病室には不動産の営業マンである中...

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