第7章

愛未の視点

背後でエレベーターのドアが開く。

私は飛び出そうとするけれど、直樹に手首を掴まれた。強くじゃなく、ただ、しっかりと。

「愛未。俺を見て」

無理。全身が凍りついたみたいに動けない。

「頼む」

やっとの思いで顔を向ける。黒い瞳が、私の目を捉えて離さない。見下すような笑みじゃない。優越感でもない。ただ、名状しがたい、なにか剥き出しの感情がそこにあった。

「私のこと、世界一の馬鹿だと思ってるでしょ」

声が喉に詰まって、絞り出すようだ。

「違う。馬鹿なのは、俺の方だ」

やめて。優しくしないで。余計に辛くなるから。

彼の親指が、私の手首をそっと撫でる。「一...

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