第3章

午前三時十七分。白峰ヶ丘ホテルの豪華なスイートルームで、俺はスマートフォンの画面を呆然と見つめていた。

玲子の二十九歳の誕生日を祝うビデオを、もう何度再生したかわからない。それでも、死んだはずの彼女が、俺を苦しめるためだけに『復活』したなどという、この残酷な現実を受け入れられずにいた。

「クソ、この馬鹿が……いったい何よ......」と、俺は歯を食いしばる。スマートフォンを消そうとした、その瞬間、画面がぷつりと暗転した。

そして、血のように赤い一行のテキストが、ゆっくりと浮かび上がった。

「山崎隆司は嘘の代償を払う」

心臓が止まるかと思った。

数秒後、スマートフォンの画面は元に戻ったが、ツイッターの通知が爆発的に増えていた。震える指で通知を開くと、そこには@メロディ中毒という匿名アカウントによる、俺の息の根を止めるようなツイートが投稿されていた。

「山崎隆司が本当に隠していることを知りたいか? これは氷山の一角にすぎない」

ツイートの下には、三十秒の動画が二本、添付されていた。

一本目の動画のタイトルに、俺は息を呑んだ。『隆司へ、三十歳の誕生日おめでとう - 2025』

「まさか……ありえない……どうして彼女が……」

指が震えるのも構わず、俺は一本目の動画をタップした。

動画が再生された瞬間、俺は完全に凍りついた。

画面の中の玲子は、私の知る彼女とは、あまりにもかけ離れた姿だった。痛々しいほどに痩せ細った頬は、かつての面影を失い、深く落ち窪んだ眼窩は、その奥に宿るはずの輝きを、どこか遠い場所に置き去りにしてしまったかのようだった。頭には、場違いなほど鮮やかなピンクのニット帽が、かろうじて彼女の生気を繋ぎ止めているように見えた。

背景は、温かな日差しが差し込むはずのリハビリ施設のセラピールームではなかった。そこは、無機質な白い壁と、冷たい空気が支配する、殺風景な病室。そのコントラストが、玲子の現状を、より一層、残酷な現実として突きつけてきた。私の胸に、鉛のような重みがのしかかる。

「隆司も三十歳か……。きっと、二枚目のアルバムを作ってる頃だよね……」かろうじて聞き取れるほどの、か細い声。カメラに向かって無理に微笑んではいるが、その腕に生々しく残る注射の痕が、俺の胃をかき乱した。

彼女の足元にはハチが伏せていたが、その毛並みは俺の記憶にある金色ではなく、白髪がまだらに混じっていた。

「嘘だ……ありえない……どうして彼女が……」

正気が崩れていくのがわかった。スマートフォンを消したい。逃げ出したい。だが、恐怖と好奇心が俺を先へと駆り立て、指は意思に反して次の動画へと伸びていった。

二本目の動画は、さらに残酷だった。『隆司へ、三十五歳の誕生日おめでとう - 2030』

玲子は車椅子に座っていた。骨と皮ばかりに痩せ細っている。彼女の手の震えでカメラは絶えず揺れており、撮影すること自体が極めて困難になっているのがわかった。

「あなたが……もう、一人じゃありませんように……。隣にいる彼女に……伝えて……。あなたを愛してくれて、ありがとうって……」

そこまで言い終えるのがやっとで、彼女は激しく咳き込み始めた。

そこで、映像は唐突に途切れた。

怒りが、火山のように噴出した。俺はスマートフォンを壁に叩きつけ、吼えた。「ふざけるな!一体どうしろって言うんだ!」

荒々しい俺の息遣いだけが、密閉された部屋に不気味に反響する。握りしめた拳の熱が、掌に汗を滲ませていた。意味もなく部屋の隅から隅へと歩き回り、その度に床板が軋む。心の奥底から這い上がってくる、恐ろしい真実を告げる声――それを、必死でかき消そうと、俺はただ、無意味な動きを繰り返していた。

しかし、激情は長くは続かない。数分と経たぬうちに、燃え盛る怒りの炎は、凍てつくような恐怖の冷気に取って代わられた。思考は、急速に現実へと引き戻される。今、この瞬間、世間がどう反応しているのかを知る必要があった。この、突如として降りかかった災厄が、一体どれほどの規模で、俺たちを飲み込もうとしているのかを。

俺は部屋の隅へ歩み寄り、粉々になったスマートフォンを慎重に拾い上げた。

幸い、画面はかろうじて機能していた。恐る恐るツイッターを開くと、すべてが手遅れなほど炎上していることを知った。

@がん専門医というアカウントからのコメントが、俺を奈落の底へと突き落とした。「症状から見て、彼女は化学療法を受けていたと思われます。この動画を撮影するのは、彼女にとって極度の苦痛だったはず。注射痕は長期的な点滴治療を示しており、帽子の下はおそらく脱毛しているでしょう。これらは典型的な末期癌の症状です」

@謎解き人が分析を続ける。「ハチの変化を見てください! 一本目の動画ではまだ金色なのに、三十五歳の誕生日の動画では白髪混じりになっている。つまり、これらの動画は少なくとも一年以上のスパンで撮影されている。彼女は闘病しながら、これを記録していたんだ!」

俺の世界が、ぐらりと傾き始めた。いや、そんなはずはない。俺は必死にページを更新し、違う意見を探したが、どのコメントもナイフのように突き刺さる。

「カメラの揺れは、化学療法患者によく見られる手の筋力低下を証明している。なんてことだ、彼女は命を削ってこのビデオを撮っていたんだ!」

「つまり山崎隆司は嘘をついていたのか? この子は明らかに病死じゃないか!」

「クズミュージシャンめ、癌患者まで攻撃するなんて!」

癌患者? 俺は呆然とした。違う……そんなはずはない……玲子はただ……

だが、俺の脳裏に、あの頃のディテールが勝手に蘇り始める。日に日に痩せていった頬、時折見せた咳、いつもかぶっていた様々な帽子……。

「違う、違う、違う……」俺は頭を振り、その思考を追い払おうとする。だが、同じ言葉、癌を繰り返すコメントが、津波のように押し寄せてくる。世界がぐらぐらと回り始め、部屋の空気が薄くなっていく。

これを止めなければ。俺はPRチームの緊急連絡先に電話をかけた。「関連動画をすべて削除しろ! 今すぐだ! 手段は問わない!」

電話の向こうから、震える声が返ってきた。「山崎さん、試みてはいますが、攻撃が止まりません。二十以上ものバックアップアカウントが、狂ったように再投稿を続けています。それに……医療専門家たちが、専門的な分析を発表し始めています」

「何のだ?」俺の声は、自分でも聞き取れないほど掠れていた。

「彼らが言うには……彼女は本当に、末期癌だったと。動画の症状はすべて化学療法を示していると。隆司さん、彼女に対するあなたの告発は、本当に真実だったのですか?」

その問いは、胸に突き刺さる鉄拳のようだった。俺は電話を切り、床に崩れ落ちた。

時間が止まったようだった。どれくらいそうしていたか分からない。心は空白だった。外の世界は回り続けているようだが、俺だけがこの真実の渦に囚われ、息もできず、思考もできなかった。

突然、携帯が震え、沈黙を破った。梨乃からのメッセージだった。「隆司、あの動画見たわ。話がしたい」

俺はそのメッセージを長い間見つめていた。心の中で激しい葛藤が渦巻く。助けを求めたい自分がいる一方で、現実を受け入れることを拒む自分が、それ以上に大きかった。結局、俺は機械的に返信した。「話すことはない。契約に従え」

すぐに彼女から電話がかかってきた。その声は震えていた。「隆司! 彼女は明らかに病気だったのよ! 化学療法の痕を見た? 彼女、死にかけている中でこのビデオを撮っていたのよ!」

「それがどうした?」俺は冷たく笑ったが、声の震えが恐怖を裏切っていた。「彼女、このくそ女が俺を捨てた事実は変わらないだろ?」

「信じられない……本気でそう思ってるの? 隆司、彼女はあなたのために二十九本ものビデオを撮ったのよ! 毎年、誕生日のために! これは見捨てたんじゃない、これは……」

俺は彼女の言葉を遮って電話を切った。

まるで檻に閉じ込められた獣のように、俺は部屋の中をぐるぐると歩き回った。荒れた息遣いは、肺を抉るような痛みを伴い、一歩踏み出すたびに、足元から絶望が這い上がってくるようだった。

必死に、すべては嘘だと自分に言い聞かせようとする。だが、その言葉は、まるで空虚な呪文のように、俺の心に届かない。代わりに、梨乃の、あの震える声が、耳の奥で執拗に反響し続けるのだ。「二十九本のビデオ……毎年、誕生日のために……」。その一つ一つの言葉が、鋭い刃物のように俺の胸を切り裂き、血を流させていた。

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