第1章
【S級ダンジョン『凶宅44号』へようこそ。】
【現在のプレイヤー:30名。】
【クリア条件:七日間の生存。】
無機質な機械音声が、荒涼とした荒野の上空に響き渡る。
私はぼんやりと目を開けた。頭がまだ少しボーッとしている。
さっきまでロケバスで仮眠を取っていたはずなのに、どうして目を開けたらこんな荒れ果てた山奥に立っているの?
目の前にそびえ立つ陰気な古城を見て、私は一瞬で目が覚め、続いて狂喜乱舞した。
花さん、マジ有能!
私へのサプライズのために、寝ている間に私を梱包して『ハートビート・シグナル』の収録現場に直送するなんて!
これがS+級超大作の「没入型オープニング」ってやつ? もう最高、愛してる!
その時、空中に浮かぶ半透明のスクリーンには、弾幕が狂ったように流れていた。
【は? 誰この女? なんでピンクのスーツケース3つも引きずってんの? 無限流ダンジョンに引っ越しでもしに来たわけ?】
【この顔……富田由梨奈じゃないか? あの芸能界トップクラスの「お飾り美女」?】
【終わったな。この姉ちゃん間違いなく噛ませ犬だわ。悪霊もニッコリ:自然の恵みをありがとう。】
私は髪型を整えた。この恋愛バラエティで誰よりも輝くために、勝負服をトランク三つ分も持ってきたのだから。
強度の近視と乱視のせいで、コンタクトを入れていない今は3メートル先の人畜の区別もつかないけれど、自信満々に顔を上げるのには何の問題もない。
古城の入り口には、他のゲストたちも立っていた。
彼らは一様に顔面蒼白で、篩のようにガタガタと震えている。
私は心の中でこっそりメモを取った。今回の素人ゲスト、演技力が凄すぎる。初対面の緊張と恐怖をここまでリアルに演じるなんて、プロ顔負けだわ。
「ゴホン、あの……」
声をかけてきたのは女性だった。甲高い声だ。顔はよく見えないけれど、ぼんやりとした輪郭だけが分かる。
彼女は三階建ての古城を指差し、私の巨大なピンクのスーツケースをじろりと見てから、突然作り笑いを浮かべた。
「富田由梨奈ちゃん、荷物がそんなに多いと、一階や二階の部屋は狭くて置ききれないかも。三階はフロア全体がスイートルームになってて、一番広くて眺めもいいの。どうかしら……三階に住んでみない?」
その言葉が出た瞬間、他の三人のプレイヤーが息を呑み、まるで死人を見るような目で私を見た。
【この女、性根が腐ってやがる! ボスの部屋が最上階にあるのは常識だろ? 三階なんて死体置き場みたいなもんだぞ!】
【富田由梨奈を囮にしてボスを引きつけさせ、自分たちが下の階で生き延びるつもりか!】
【脳みそに穴が開いてなけりゃ行かないだろ……あ、ごめん、富田由梨奈だったわ。彼女なら行くな。】
でも、私はそんなこと知る由もない。
聞いた瞬間、私の目は輝いた。
スイートルーム? 一番眺めがいい?
これって、伝説の「センター待遇」ってやつ?
やっぱり、美人は運にも愛されるのね。
私は思わず吹き出しそうになるのを堪え、口角を押さえながらその女性の手を握って振った。
「本当? お姉さん、いい人ね! オートクチュールのドレスを掛ける場所がなくて困ってたの! ありがと!」
女性は呆気にとられていた。こんなに騙しやすいカモを見たことがないのだろう、口元を引きつらせている。
「は、はあ……ど、どういたしまして」
こうして、死地に赴く「おバカさん」を見送るような衆人の視線を浴びながら、私は鼻歌交じりに、死ぬほど重いトランク三つを提げ、十センチのピンヒールでカツカツと三階まで一気に駆け上がった。
