第100章 海に飛び込む

瀬尾杏奈は、ときどき思う。三年前の自分は、いったいこの男のどこに惚れたのだろう、と。

目の前にあるのは、吐き気がするほど醜い顔つきだけ。

杏奈は、何も言わなかった。

古谷晏一は口角を下げ、いきなり彼女の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。

「ここまで落ちぶれて、俺に尻尾振るしかねえ立場だろ。まだ自分が瀬尾家のお嬢様で、上から見下ろせるとでも思ってんのか?」

杏奈は黙ったまま。黒い瞳に浮かぶのは、あからさまな嘲り。

顎を掴む指が、ぐい、と食い込む。晏一の得意げな表情が、苛立ちで歪んだ。

「瀬尾杏奈。お前、ずっと俺を見下してたんだろ。昔も、今も!」

杏奈がようやく口を開く。頑なだっ...

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