第130章 あの頃のこと

北島孝明が会計を済ませ、席を立とうとしたところで、瀬尾南がすっと前に回り込んだ。声色だけは柔らかく整えて言う。

「まさか私に呼び出されて、食事だけして帰るつもりじゃないよね?」

北島孝明はスマホをゆっくりしまい、至って真面目な顔で返した。

「ちょうど君が指定した時間、腹が減ってた。それに、ここのレストランの料理も食べたかったし」

「…………」

商談の場で、いろんな男を見てきた。

それでも、こんなタイプは初めてだ。

瀬尾南の上品な仮面が、ぷつりと切れた。腹の底に溜まった火をぶつける場所がなくて、テーブルの水のグラスを掴むと、そのまま北島孝明の顔面めがけて叩きつけるように浴びせた。...

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