第50章 世間の風評

瀬尾杏奈は、目の前で喚き散らす下品な女に手をひらりと振ってみせ、警備員に連行するよう合図した。

続けて、隣に控えていた瀬尾南へ視線を投げる。秘書である南は即座に察し、「了解」とでも言うように親指と人差し指で小さく輪を作ってから踵を返した。

――そのときだ。

杏奈は、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。

視線が、少し離れた柱へと吸い寄せられる。

じっと見据えたまま、ゆっくりと振り返る。

だが、先ほどまで確かに刺さっていたはずの視線は、跡形もなく消えていた。

もう一度正面に向き直ると、地下駐車場の薄暗がりに誰かが潜み、自分を見張っているような気配だけが残る。

杏奈はその影へ目を凝ら...

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