第59章 大きな秘密

瀬尾杏奈の視線が、わずかに揺れた。

田中蘭は慌てて何度も頷く。

「お嬢様の仰せのとおりに。すぐ手配いたします」

そう言うと、俯いたまま余計なことは一切口にしなかった。

その日の午後、瀬尾杏奈は田中蘭を連れて瀬尾家へ戻った。

玄関をくぐった瞬間、水野心音の視線が二人に吸い寄せられる。

「田中さん、早く教えて。お母さんが好きな酢豚、どう作るの?」

入るなり心音は田中蘭の背中を押し、ずいっとキッチンへ押し込んだ。扉を閉めると、ひそひそ声で何やら話し込む。

瀬尾杏奈はそれを見ても、表情ひとつ変えない。黙って飲み込む。

身を翻した、その瞬間。

階段の踊り場に立つ瀬尾晴海と、目が合っ...

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