第1章
星野紗季視点
夜十一時、私は一人書斎に座り、目の前には慈善団体の財務諸表が広がっていた。数字が滲んで見えるなか、こめかみを揉む。この三年、哲朗が様々な付き合いや「重要な会議」でいつも忙しい間、私が一人でこれらの問題を処理することにはとっくに慣れていた。
突然、電話が鳴った。その甲高い音が、夜の静寂を切り裂く。
発信者表示を見て、私の心臓はずしりと重くなった。鈴木智也――富裕層のスキャンダルを専門にするパパラッチだ。
「もしもし」事務的な用件を処理するかのように、冷静な声で応じた。
「星野さん、また旦那さんの写真が撮れましたよ」鈴木の聞き慣れた、嫌味なほど得意げな声が言った。「今回は五百万でどうですか」
五百万。もう驚きもしなかった。ただ機械的にペンを取り、メモ帳に詳細を書き留める。これで三十七回目――私はきちんと数えている。
「どこで撮られましたの?」と私は尋ねた。
「ご自身のプライベートヨットの上です。相手は二十二歳くらいのとびきりの美人ですよ」鈴木は舌打ちをした。「写真はかなりきわどいですよ、星野さん」
私の手が止まった。ヨット?「ビジネスの接待用」だと言っていた、あの?
「メールで送ってください。お金は明日振り込みます」出前でも注文するかのような、落ち着き払った声で私は答えた。
電話を切った後、スマートフォンの画面を睨みつけながら、内側で渦巻く感情と向き合った。結婚してから、星野哲朗の尻拭いに一体いくら使ったのだろう?三億?五億?それ以上?もうわからなくなっていた。
メールの受信を知らせる音が鳴った。
私は深く息を吸い込み、鈴木が送ってきた写真を開いた。
画面には、ヨットの寝室で若い女性を抱きしめる哲朗がいた。互いの体を密着させている。私はすぐにその顔に見覚えがあった――篠原菜々子。名門大学を出たばかりの、会社の新しいインターン。陶器の人形のように美しい子だ。
初日のことを思い出す。オフィスの戸口に緊張した面持ちで立ち、未来への希望に満ちた目をしていた彼女。それが今、夫の腕の中で、焦点の合わない目つきで、服を乱している。
「また若くて美しい子ね」空っぽの書斎に、自分の声が棘々しく響いた。
それが哲朗の好み――いつも若く、美しく、無防備な女の子。そして私?三十歳の星野紗季。完璧な社長の妻。永遠に優雅で、永遠に理性的で、永遠に彼の無謀さの代償を払い続ける存在。
三年前の夜の記憶が不意に蘇る。結婚して間もない頃だった。初めて彼の不貞の証拠を見つけた私は、泣きながら彼を問い詰めた。彼は私を抱きしめ、優しい声で約束したのだ。「紗季、君は俺の妻で、ビジネスパートナーだ。俺たちは完璧なチームだよ。こんな些細な火遊びで、俺たちの関係は変わらない。だから安心してくれ」
私は彼を信じた。信じただけでなく、彼が起こした問題の後始末をする責任まで引き受けた。これが結婚の代償であり、星野家の女主人としての務めなのだと自分に言い聞かせてきた。
だが今、画面の写真を見ていると、そのすべてが突然、馬鹿らしく思えてきた。
なぜ私はこの茶番を続けているの?
怒りが野火のように胸の中で燃え上がり、三年間分の屈辱と憤りが一気に噴出した。私は再び鈴木の番号をダイヤルした。
「どうしました、星野さん?口止め料の増額ですか?」鈴木の声は媚びるような調子に変わった。
「鈴木さん、今回は買いません」
電話の向こうで数秒の沈黙があった後、鈴木の信じられないといった声が聞こえた。「……は?星野さん、冗談でしょう?この写真が出回ったら……」
「すべてのマスコミに写真を送りなさい」驚くほど冷静な自分の声で、私は彼の言葉を遮った。「もうどうでもいいです」
「奥様、本気ですか?こんなことになったら――」
私は電話を切った。
立ち上がると、今までにないほどの軽やかさを感じた。三年間で初めて、私はあの浮気野郎の選択に責任を負うのをやめたのだ。車のキーを掴み、書斎を出た。
街を走り抜ける間、通りは閑散として静かだった。ネオンの光が窓の外で明滅し、私の決意に満ちた顔を照らし出す。ラジオからは古い歌が流れていた。歌詞は聞き取れないが、そのメロディーは悲しくも、断固としたものだった。
「三年の屈辱は今夜で終わり」アクセルをさらに強く踏み込みながら、私は自分に言い聞かせた。
星野グループの本社は夜でも煌々と明かりが灯り、数多のビジネス伝説と一族の秘密を見届けてきた鋼鉄の巨獣のようだった。
車を停め、ロビーに入り、エレベーターで最上階へと直行する。
エレベーターがゆっくりと上昇する間、一つ一つの階が過去との決別のように感じられた。鏡に映る自分を見る――完璧なメイク、高価なスーツ、非の打ち所がない髪型。これが彼らが望んだ星野紗季――優雅な花瓶、プロの後始末屋。
だが今夜、私はそのレッテルを自ら剝がし取る。
エレベーターのドアが開き、私は会長室へと向かった。その重厚なオーク材のドアの向こうには、哲朗の父――創業者である星野健太がいる。六十歳のその男が、星野グループ全体を支配している。
ノックもせず、アポイントもなしに、私はドアを押し開けた。
健太さんは書類に目を通していたが、一瞬驚いたように顔を上げた後、いつもの威厳ある態度に戻った。
「紗季、こんな遅くに。何か急用か?」
かつては私を威圧したこの男をまっすぐに見つめ、私の口調は穏やかでありながら、鋼のような決意を秘めていた。「三年です。もう私を解放してください」
