第5章

松井紗季の視点

半年後、私は繁華街にあるオフィスの窓際に立ち、街を見下ろしていた。太陽の光が、デスクに置かれたネームプレートを照らし出す。「株式会社サキ・イノベーション 代表取締役社長」

「星野さん、役員の皆様がお揃いです」アシスタントの橋本恵美が、財務報告書の束を抱えてノックしながら入室し、そう告げた。

私は振り返り、黒いスーツの襟を正して深呼吸した。緊張はしていたけれど、法廷にいたときのようなものじゃない。あれは絶望だった。これは、高揚感だ。

会議室では、八名の役員がすでに着席していた。私はテーブルの上座へと歩み寄り、かつては手の届かない存在に思えたビジネスエリートたちを見...

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