第8章

松井紗季の視点

鏡の前に立ち、ドレスを最後に一度整える。心は、ここ数年になく穏やかだった。

今夜は私の婚約パーティー――新しい門出だ。シャンパンカラーのシルクのガウンが、私の体に完璧にフィットしている。雅彦が選んでくれたダイヤモンドのネックレスが、照明の下できらきらと輝いていた。鏡に映る自分を見つめながら、三年前の私のことを思った――哲朗から一度視線を向けられただけで、一日中幸せでいられた、あの頃の女の子のことを。

あの子はもういない。私はもう、あの頃の私じゃない。今の私は、自分の人生の主導権を握っている。

「紗季、準備はできたかい?」ドアフレームを優しくノックしながら、雅彦が...

ログインして続きを読む