第10章

西港精神医療センターを退院したあの日、私は秋乃に冗談めかしてこう言った。「こんな消毒液の臭いが充満した檻には、死んでも二度と戻ってこない」と。

だが、現実は残酷だ。

私はまた病んでしまい、鉄格子の内側へと舞い戻ってしまった。

西港の冬といえば、いつもは湿った冷たい海風が吹き荒れ、凍雨が降るのが常だ。けれど今年は珍しく、雪が降った。

ガーゼ交換の際、看護師が世間話のようにぼやく。

「今年は厳冬ですねぇ。またラニーニャ現象かしら。地球環境もどんどん過酷になって、生きづらい世の中になったものです」

もうすぐ大晦日だというのに、窓の外の欅は葉をすべて落とし、寒々しい姿を晒して...

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