第5章

高熱が一向に引かない。

私は布団の中にうずくまり、朦朧とする意識の中で、全身の関節が軋むような痛みに耐えていた。

窓の外を吹き抜けるのは、東都特有の乾燥した、骨まで凍みるような北風だ。その微睡みの中で、私は西港でのあの冬の夢を見ていた。

夢の中、私は藤崎礼の背におぶさっていた。

「ねえ、礼。私が死んだらどうする?」

彼の足取りは驚くほど安定していた。その口調は淡々としているが、確信に満ちている。

「馬鹿なこと言うな。ただの熱だ。注射を打てばすぐに治る」

「バイト代、足りるの? 保険証がないと高いのに」

「大丈夫だ」

「大丈夫なわけないじゃない。礼、こっそりバイトいくつも掛け持ちしてるくせに」

藤崎礼は何も答えなかった。診療所の前に着くと、彼は私を下ろし、高熱で赤く火照っているであろう私の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。

「遥。お前が無事なら、金のことなんて俺がどうにかする」

彼の着ていた古びたダウンジャケットの中に縮こまりながら、私は小さな声で言った。

「父さんと母さんの喧嘩が終わったら、生活費をもらって礼に返すから」

彼は優しく私の頭を撫でた。

「俺を信じろ。いつか必ず、金には困らないようにしてやる」

だが現実には、「いつか」も「平安」も訪れなかった。

藤崎礼がコンクールのため東都へ発ったその夜、家のドアを開けた私は、父が見知らぬ女を抱きかかえている場面に出くわした。

その瞬間、当たり前だった日常は唐突に終わりを告げたのだ。

続くのは終わりのない怒号と争い。父は金を待ち逃げし、資産だと思っていた不動産は瞬く間に巨額の負債へと変わった。

そして深夜、取り立て屋たちが土足で踏み込んできた。

映画のようなスローモーションなどない。あるのは混沌とした暴力だけだった。揺れる照明、男たちの罵声、押さえつけられた時の激痛、そして母の絶望的な悲鳴。すべての感覚が混ざり合い、吐き気を催すほどの不快感となって襲いかかる。

全てはあっという間の出来事だった。

母は、浴槽で冷たくなっていた。

秋乃が私を見つけ、服も乱れたままの私の腕を引いて現場から連れ出し、西港郊外の安アパートへと匿ってくれた。

陰鬱な雨の日だった。西港精神医療センターの廊下は、鼻をつく消毒液の臭いに満ちていた。

私はサイズの合わない喪服に身を包み、長椅子の上で小刻みに震えていた。

「重度のうつ病、心的外傷後ストレス障害を併発。それに家族歴も認められます」

医師はカルテに目を落としたまま、事務的な口調で秋乃に告げた。

「自殺企図が顕著です。数年は誰かが常についている必要がある。ご家族は覚悟してください。精神的にも金銭的にも、これは底なし沼のようなものですから」

その頃の私は精神が完全に崩壊していて、警察に通報して証拠を残す気力さえ残っていなかった。

私と秋乃は、ただ生き延びるためにこの場所で喘ぐ、二人の敗残者に過ぎなかった。

同じ日、藤崎礼はコンクールで一等賞を勝ち取った。

それは、東都の名門校への進学と公費留学を約束された、未来への切符だった。

電話の向こうからは、風の音と、彼が抑えきれない興奮が伝わってきた。

「遥」

彼の弾むような声が響く。

「約束、果たしたぞ。三年待っててくれ。帰ったら、お前を嫁にもらうから」

私は病院の閉ざされた重い鉄扉を見つめながら、自分がもう二度と外の世界へは行けないことを悟っていた。

「礼……私、たぶん、もう一緒にはいられない」

手のひらに爪を食い込ませ、こみ上げる嗚咽を必死に堪える。

電話の向こうで一瞬の沈黙が落ち、すぐに焦ったような声が返ってくる。

「なんでだ?」

口を開きかけたその瞬間、私は助けを求めたかった。

家が破産したこと、お母さんが死んだこと、体が痛くてたまらないこと、全部伝えたかった。

けれど、彼の前途は東都にある。光り輝く未来にあるのだ。巨額の借金と精神病歴、そして汚された過去を背負ったこの体で、どうして彼をこの薄暗い西港に引きずり落とすことができるだろうか。

窓越しに視線を落とすと、中庭に一組の男女が見えた。

泣き叫ぶ女性患者。そして彼女に付き添う男の顔には、愛など微塵もなく、あるのは身も凍るような疲弊と嫌悪だけだった。

それが「長い闘病」の果てにある真実の姿だ。

あの男の冷え切った目。あれが、いつか藤崎礼が私に向ける目になるのだろうか。

冷たい風が襟元を吹き抜け、鎖骨の下に残る青紫色の痣が露わになる——それは、取り立て屋たちが残していった痕跡だった。

私は涙を乱暴に拭うと、できる限り冷淡に聞こえるよう声を低くした。

「藤崎礼。あなたはあなたの、いい人生を生きて。私たちはもう、これっきりにしましょう」

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