第56章明確化

ドアを開けた途端、ひんやりとした風が頬を打ち、渦巻いていた思考が少しだけほどけた。

彼女はタクシーを止めた。

集合住宅の前の古びた石畳を、タイヤがごろごろと転がっていく。石と石が擦れ合う音が、やけに鮮明に耳に残った。

レナはシートベルトを握る手に力を込めた。

ヴァレンティナの言葉は棘のように胸の奥へ刺さり、意識をぼんやりとさせる。そのせいで、通りに見慣れた姿があったことにも気づけなかった。

彼女を密かに撮り続けていた男は、近くの喫茶店へと滑り込んだ。

男が扉を押し開けるやいなや、視線は窓際のイザベラに落ちる。

彼女は指先でコーヒーカップの縁をゆっくりとなぞっていた。男が入ってきた...

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