第76章台帳

だが、そんな瞬間はめったになかった。

レナは目を開き、長い息を吐いた。

昨日、彼女とキリアンは静かに別れた。けれど彼女の人生は、いっこうに平穏へ戻らなかった。

目の前の光景を見渡し、わずかに疲れの滲む目元を隠すようにサングラスをかけると、レナはその一帯へ足を踏み入れた。

ここは、かつて彼女が訪れたことのある旧市街――イゾルデが以前暮らしていた場所だ。

レナは、イゾルデに関わる古い事件の情報をイザベラから引き出そうとした。だがイザベラは正気を失っていて、会うたびに毒づくような呪詛を吐き散らすばかり。役に立つ話はひとつも得られなかった。

イザベラが行き止まりだと確信したレナは、計画を切...

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