第4章
拓也の勉強仲間として過ごした二週間、彼が本気で変わろうとしていることは認めざるを得なかった。毎晩の勉強時間、彼は時間通りに図書館に現れ、私がアルゴリズムの原理を説明するのを熱心に聞き、彼独特のアスリートとしての視点を共有してくれた。
私たち、少しずつ……特別な何かが芽生え始めていたのかもしれない。
だが、一週間前にすべてが変わった。
学校から突然、私が全国プログラミングマラソンの代表の一人に選ばれたと通知があったのだ。準備期間は、わずか一ヶ月。コンピュータサイエンス学部の『プログラミングの女神』である以上、完璧な結果以外は許されなかった。
その日から、私は拓也との約束をすべて先延ばしにし、完全にコードの世界に没頭した。
その夜の午前三時。私は充血した目でスクリーンを睨みつけ、機械的にキーボードを叩いていた。七十二時間ぶっ通しで作業を続けた身体は悲鳴を上げ始めていたが、脳はその警告を無視していた。
「明美、三日も寝てないだろ」
拓也の声が私の思考を遮った。私は顔も上げず、その奇妙なコードを見つめ続ける。また彼が来たのだ。ここ数日、彼は毎晩のように現れては、私に休むよう説得しようとしていた。
「私のアルゴリズムにはまだバグがあるの。最適解を見つけなきゃ」私の声は錆びついた機械のようで、自分でも聞き分けられないほど掠れていた。
拓也が私の背後に移動するのを感じた。以前なら踏み込まれたように感じただろうが、この二週間を共に過ごしたことで、彼の存在に……慣れてしまっていたのかもしれない。いや、あるいは説明のつかない安心感を覚えていた、と言うべきか。
「大会までまだ一週間ある。時間はあるだろ。そんなことしてたら、君、倒れるよ」
私は突然振り返った。疲労で神経が昂り、感情が爆発しそうだった。
「最適解は誰も待ってくれないの、あなたならわかるでしょ、あなたが完璧なショットを追求するのと同じよ」
拓也は赤く腫れ上がった私の目を見て、心配そうな表情を深めた。それは本物の心配なのだろうか? 疲弊しきった私には、もう判断がつかなかった。
「でも、このままじゃ君は壊れてしまう」
「まだ、もつわ」私はスクリーンに向き直り、彼の干渉を遮断しようとした。「お願いだから、今は邪魔しないで」
だが、彼がまだそこに立っているのがわかった。まるで頑なな守護神のように、立ち去ることを拒否して。
――
一週間後、私は発表の壇上で、眼下に広がる人の海を前にしていた。すべては制御下にあると自分に言い聞かせたが、身体は私を裏切り始めていた。
「私のアルゴリズムは、改良された動的計画法を採用しており……」デモンストレーションを始めたが、一言一言をはっきりと発音するのに全力を要した。
観客席に拓也の姿が見えた。その眼差しは真剣で、張り詰めていた。この二週間で、彼のその緊張が私への純粋な心配から来るものだと、わかるようになっていた。
「時間計算量の点では、我々は……」
突然、私の世界が崩れ始めた。視界がぼやけ、音が歪み、身体が言うことを聞かなくなった。
意識が途切れる前の最後の記憶は、誰かに受け止められた感触と、聞き慣れた声が必死に私の名前を呼ぶ声だった。
目が覚めて最初に見たのは、拓也のやつれた顔だった。彼は病院のベッドに突っ伏して眠っていて、その手は私の手を固く握りしめていた。その光景に私は数秒間呆然とした。試験前のルームメイト以外に、私のために徹夜してくれる人なんていなかったから。
「拓也?」そっと呼びかけた。
彼はすぐに目を覚ました。その目には驚きと安堵が浮かんでいて、私の心を温かくした。
「目が覚めたのか! 気分はどうだ?」
私は力なく彼を見つめた。
「どうしてここに? 大事な練習があるんじゃないの? 明日は選手権大会の準備だって言ってた気がするけど……」
拓也の表情が、私の心拍を不規則にさせるほど優しくなった。
「大会は毎年ある。でも、君は……」彼は言葉を切り、少し声を詰まらせた。「明美は、どんな大会よりも大切なんだ」
その言葉は、私の心臓を殴られたかのように強く打った。私の世界では、誰かのために自分の大切なことを犠牲にする人などいなかった。それは私の人間性に対する理解を根底から覆すものだった。
「お願い......私のために、選手権大会の準備を諦めたの?」私の声は震えていた。この反応は、完全に私の制御を超えていた。
拓也は真剣な眼差しで私を見つめた。
「明美、君が昔、俺のことを真剣じゃない、ただ遊んでいるだけだと思ってたのは知ってる。でも、今回は違う……俺は本気で君を心配してるんだ。君が倒れるのを見て、俺にとって君がどれだけ大切か、わかったんだ」
かつてない感情が心に溢れ出すのを感じた。無条件に愛されるというこの感覚、私は今まで経験したことがなかった。人間関係は価値の交換で成り立つものだとずっと思っていたのに、拓也の行動は私の理解を完全に覆した。
「ありがとう、拓也」声が微かに震えた。「私、今まで……こんな風に大切にされたこと、なかったから」
「君はこうやって大切にされるべきなんだ。君のためならすべてを投げ出してくれる人がいて当然なんだよ」
彼の言葉に、涙腺が決壊した。理性で築き上げてきた硬い殻が、もろくも崩れ去っていく。
「私の大会は……」ふと思い出した。
「君のアルゴリズムはもう十分完璧だよ。それに、どんな大会よりも君の健康の方が大事だ」
私は拓也に視線を向けた。この二週間、毎日一緒に勉強し、静かに私を守ってくれたこの少年。彼の瞳には、私への心配と……そして、愛?
私は突然悟った。もしかしたら、私はずっと愛というものを誤解していたのかもしれない。それを計算すべき問題のように扱い、最も適合する条件と最小のリスクを探し求めていた。でも、本当の愛とは解決すべき問題ではなく、感じるべき経験なのかもしれない。
「拓也……」私はそっと言った。
「うん?」
「私、人間関係についての考え方を……見直さなきゃいけないみたい」
拓也は微笑んだ。私の心拍を完全に乱す、そんな笑顔だった。
「君が答えを出すのを待ってるよ。どれだけ時間がかかっても」
窓の外では夜が明け始めていた。私は自分の世界観そのものが再構築されていくのを感じていた。この変化はエラーによるものではなく、新たな可能性を発見したからだ。
拓也の温かい眼差しのもと、私は自分の感情の世界を再検討し始めた。完璧なコードは重要かもしれない。でも、私のために自分の全世界を投げ出してくれる人がいる。その価値は、計り知れない。
私は目を閉じ、この温かい感覚が心に広がるのに身を任せた。理性は、これは危険で、この未知の変化によって私の人生は制御不能に陥るかもしれないと告げている。でも、この瞬間だけは、一度自分の心を信じてみたかった。
「拓也?」
「ここにいるよ」
「今度、一緒にあなたの試合を見に行きましょう」
拓也の笑顔は、長年私を悩ませてきた問題を解き明かした時のような満足感に満ちていた。
「わかった。完璧な試合をしてみせるよ」
私は微笑んだ。技術的な問題を解決したからではなく、感情によって心から微笑んだのは、これが初めてだった。人生という複雑なゲームにおいて、愛は乗り越えるべき障害ではなく、旅全体をより完全なものにしてくれる貴重な経験なのかもしれない。
私は拓也に、私の人生の中でもっと重要な場所を与えることに決めた。何が起こるか、見てみようと。











