第60章

綾辻絃葉視点

桐谷誠一に迷惑をかけたくはない。けれど、この状況では他に頼れる相手がいなかった。

私は桐谷誠一の執務室の前まで行き、以前みたいに勝手に入らず、きちんとノックをした。中から声がして、ようやくドアを開ける。

「子どもが学校でケンカしたみたいで、先生に呼ばれたんです。少しだけ、お休みをいただけませんか」

桐谷誠一は驚いたように目を瞬かせた。どこか妙な表情を浮かべながらも、すぐに頷く。

「もちろん。許可する。行ってこい。こっちは俺が回す」

胸の奥がほどけた。私は深く頭を下げる。

「ありがとうございます」

桐谷誠一は短く頷いただけだった。

余計な時間は取れない。私はその...

ログインして続きを読む