第69章

綾辻絃葉視点

 私は道端でタクシーを拾おうとしていた。

 さっき起きた一連の出来事を反芻すると、どうにも現実味が薄い。まだ頭のどこかが追いついていない――そんな感覚のまま、ぼんやりと立ち尽くしていた、そのとき。

「た、助けて……!」

 耳元に飛び込んできた悲鳴。

 思わず左右を見回す。声は、近くの細い路地の奥からだ。

 ……気のせいだろうか。妙に聞き覚えがある。どこかで――。

 そう考えながら路地へ近づき、入口から覗き込んだ瞬間、私は足を止めた。

 数人の男が、ひとりの男性を囲んで殴りつけている。

 そして、その顔を見てようやく思い出す。

 浅川正平。

 あの誕生日パー...

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