第70章

綾辻絃葉視点

 ほとんど噂を聞いたことはない。けれど広場の近くにバーを構えられる時点で、ただ者じゃないのは分かる。

 あの一等地に店を構えられる――それだけで格が違う。中心部でもない場所で、娯楽の頂点のように扱われる理由も、結局はそこに行き着く。

 裏に霧島雲がいるからだ。

 霧島雲は表も裏も牛耳る大物で、あの店の中なら、余計な目を気にせずに話ができる。

 殺し屋組織のこと。薬の売買。表の連中同士の汚い取引――そういう類の話が、平然と飛び交う場所。

 だからこそ、石川成浩はあれほど怯えた。あのときは頭に血が上って、勢いでやらかしただけ。

 けれど一晩でも冷静になれば、背筋が凍る...

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