第38章

「悪い人……?」

千堂誠也は足を止め、肩越しに榎本日織を見た。

榎本日織はぱちりと瞬きをする。理性はとうに吹き飛び、目の前の男を――自分の夫だと信じ切っていた。

言葉は出てこない。ただ、手首を差し出す。縄に擦れた赤い痕。

千堂誠也の瞳が沈む。指先がそっと、その傷の上をなぞった。

「痛むか」

榎本日織が一度も聞いたことのない、柔らかな声だった。

魔法でもかけられたみたいに、榎本日織はこくりと頷いてしまう。

「……痛い」

千堂誠也は背後の護衛に視線を投げ、榎本日織を抱え上げたまま大股で自宅へ戻った。

家の中はしんと静まり返っている。葉月たちはもう眠っていて、起きていたのは執事...

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