第60章

「脅しですか?」

心理医はますます不機嫌になり、苛立った視線を榎本日織へ突き刺した。

「ええ。脅しだけじゃない。警告よ。葉月にもっと敬意を払いなさい。あなたの患者である以前に、あなたの雇い主――社長の娘なんだから」

葉月の担当心理医、小林洋治は国際的にも名の知れた人物だった。腕は確かだが、自尊心が高すぎて社内では扱いづらい存在として疎まれている。

妬む人間も多い。陰で足を引っ張られ、会社の中での立場は日に日に悪くなった。

そんな矢先、家庭にも不幸が重なった。母親が重い病に倒れ、高額な手術費が必要になったのだ。小林には、とても捻出できない額だった。

会社はそこに追い打ちをかけた。給...

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