第70章

「ママ……」

葉月は榎本日織に向かって小さく首を振り、その手をきゅっと握った。

日織は戸惑う。葉月が何をしたいのか、見当がつかない。

「どうしたの、葉月。お話、聞きたくない? じゃあママ、歌う?」

葉月はまた首を振った。けれど今度は、するりとベッドから降りると日織の手を引き、まん丸の瞳でじっと見上げてくる。

日織が首をかしげていると、葉月はもう片方の手で、扉のほうを指さした。

ようやく意図を察し、日織は考え込むように言う。

「……ママを、どこか別のところに連れていきたいの?」

葉月はぱっと頷き、目をさらに輝かせた。

日織は少し迷ったものの、結局ベッドを降り、葉月に手を引かれ...

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