第53章

彼女は採用通知書を広げ、最後に視線を右下の公印に落とした。

赤がくっきりと残り、署名まで入っている。手続きはきちんと踏まれているらしい。

「いい。許す」

「でも採用通知書は要らない。しばらくスタジオに戻るし、時間ができたら未菜の手伝いもしなきゃ」

倉持寧音は昨日まで怒っていた。

けれど今日は、もう怒っていない。

杉山海斗が大勢の前で許しを乞うたのは、寧音が拒まないと確信していたからだ。

賭けは当たった。

この場で彼の顔を潰すことなど、彼女にはできない。

――まだ、その時ではない。

今の彼女は、名目上は彼の妻なのだから。

「わかった。全部、寧音の言うとおりにする」

「君...

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